Theatrum

創作の引き出し。創作途中の話もあるので、突然文章が変わる事があります。

螺雅◆02

兄様!起きてください!

 
兄様ぁ!
 
小鳥が鳴いて朝を知らせる頃、小さな双子も螺戯へ朝を伝えに来た。
 
んぁ〜〜、まだ寝かせてくれよぉ〜
 
兄様ダメですよ!今日は邪鬼の様子を見に行くって言ってましたでしょお!
 
もう二宮が来て待ってるんですよ!
 
そんなん…待たせとけって…んん…
 
さっさと起きなさいっ!!
 
袁麗が螺戯の布団を勢いよくひっぺがした。
 
どぉあああっ!!いって…なにしやがんだ!!
 
ドンッ!
 
螺戯の顔の横へ足で壁ドンをする袁麗に、飛び跳ねて驚く双子。
 
1時間。
 
あ?
 
あんたが起きんの待ってたのよ。1時間よ!?今日は他に予定があったのに、二宮とあんたが付いて来いって言うから付き合ってやるのに、当のあんたが寝坊とかありえないでしょ。これ以上待たせるってんならそれ相応の覚悟があるって事よね。
 
双子がそわそわしながら螺戯の袖を引っ張る。
 
…ちっ、わーったよ!!
 
3分で用意しなさい。それ以上は待てないわよ。
 
もっとおしとやかになれんもんかねぇ…
 
なに?
 
なんでもありませ〜ん。
 
袁麗は鋭く睨みながら部屋を出て行く。
 
兄様が悪いですよ?袁麗さんちゃんと待ってたんですから。
 
兄様が寝てる間もお仕事して待たれていたんですよ?ちゃんと謝った方が良いと思います。
 
お前らはお節介だよな。
 
当たり前です!私達の務めは兄様の身の回りのお世話ですから。
 
むしろお節介でなければ怠慢になってしまいます!
 
1時間前に起こしてくれればいいじゃねーか。
 
……
 
なんだよ。
 
お、
 
あ?
 
二宮に…お菓子…貰ったから…
 
食べてたのです…
 
十分怠慢じゃねーかw
 
うう…二宮が持ってくるお菓子はいつも美味しくて…
 
それは分かる。
 
僕らも袁麗様に謝ります。
 
いーよ。謝るのは俺だけで。
 
でも。
 
大丈夫だよ。お前らは俺の世話してくれりゃあそれでいんだからよ。
 
兄様…。
 
兄様…3分過ぎちゃいました。
 
な!?ゃ、やべっ!!
 
 
 
二宮、私もう帰るわね。暇じゃないのよ。
 
あいつの寝坊はいつもの事だろ。
 
それにしてもよ。こっちは外来種の保護と輸送でそれどころじゃないの。なんで私が居る必要がある訳?
 
もし外来種が出ても、俺じゃあ送れねーし…
 
螺戯が送ればいいじゃないの。
 
それによぉ、もし外来種が狂った原因が分かっても、上手く説明出来る自信ねーんだよ!俺も螺戯も!
 
呆れた。
 
しかたねーだろぉ…
 
それならそうと言いなさいよ。隠してたって事は進まないのよ。じゃあオトワをつけるわ。私より外来種に詳しいから適任だわ。
 
あい、お嬢さん。
 
うわっ、いつから居たんだ。
 
今来ましたよ。
 
それじゃ。
 
…。
 
…。
 
こたつに入って静かに読書を始めるオトワと得体の知れない人物にたじろぐ二宮はしばし無言の時間を過ごした。
 
だぁぁあああああ!!待たせたっ!すまんん!!
 
おっせーよ。袁麗帰っちまったぞ。
 
えぇ!?待ってるって言ったのによぉ!
 
そら兄さん3分が10分ですもん。お嬢さんも帰りはりますよ。
 
オトワ。お前が代わりに来てくれんのか?
 
あい。
 
なんだ、じゃあ心強いな。
 
さいで。
 
 
3人は外来種が暴れたという里を訪れ、その様子を聞いて回った。
明道院による鬼送りは至る所で鬼退治として噂されているので情報は入りやすい。
 
鬼退治とはまた。桃太郎はんみたいやな。
 
人聞き悪いよなぁ。退治じゃなくて家に帰してるんだぜ?
 
迷惑かけてんのは外来種だからな。そう言われても仕方ねーよ。
 
そのもののけを刺激してるんはヒトやけどなぁ。
 
ま、基本的にお互いの事情なんか気にしてる余裕ねーからな。余裕が無けりゃ感情も激しくなるわ。
 
どんなモノでも存在を認め合って共存していく道はないんかね。
 
そない上手い事いきまへんて。
 
オトワは否定的だな。
 
それが僕の役目やから。
 
役目…?
 
おい爽吉。化け猫が倒れてんぞ。
 
え?おぉ…⁉︎
 
こらまたえらいでかいやっちゃなぁ〜
 
こいつは猫又だなぁ。螺戯酒持ってる?
 
ねーよ。
 
お酒をどうしはるん?
 
猫又は酒が好きだから、仲良くなるには必須アイテムなんだよ。
 
へー。じゃ酒屋か。
 
旨い酒が良い。
 
近くの酒屋に明道院のお酒置いてはりまへんの?
 
あー、この辺あったかなぁ。一応聞いてみっか。
 
俺はコイツ見てるよ。誰か来たらあぶねーからな。
 
おう、頼む。
 
 
酒屋?酒屋はねーが、あっちで万屋があるよ。酒もあったんじゃねーかな?
 
そうか、ありがとう。
 
よぉ、情報を買ったんなら見返りをくれや。ニコ
 
…じゃあ、その焼き握りを二つ貰う。
 
まいどっ!
 
お前食う?
 
遠慮しときます。
 
そ。分かってたけど。
 
お心遣いおおきに。
 
ここかぁ?他と比べるとちっとでけぇ店だな。
 
この村自体さほど大きくあらへんし、なんや違和感がありますなぁ。
 
いらっしゃい。
 
ご主人、酒は置いてるか?
 
あるよ。どんなのがいい?
 
この店で一番美味いのを頼むよ。
 
それじゃあ明道院の白夜叉だね。
 
じゃあそれ。ちなみに二番目は?
 
そうさね、果樹園の杏露酒かな。
 
じゃ、それも貰うわ。
 
まいど。
 
 
ぷはっ、杏露酒うめ〜!
 
仕事中の飲酒はあかんでぇ
 
これくらいじゃ手元狂わせねーって。
 
さいですか。
 
お。起きたのか?話せたか?
 
いや、全く口をきかないなwすげー不機嫌だわ。最初暴れたんだが傷を診てやったら落ち着いた。
 
そうか、んじゃこれいっとくか?
 
怪我してるんやろ?お酒大丈夫なん?
 
は?むしろ薬だろ?
 
だよな?
 
あんたらおかしいわ。
 
 
ほら、猫又の。こりぁーここらで一番美味い酒なんだ。ちっと飲んでみな?
 
…。
 
毒はねーよ?ゴクゴク……な?
 
……ペロ。……ペロペロ。
 
お、飲んだな。
 
ガシッ
 
うわっ、
 
ゴックゴック、ゴキュゴキュ
 
うわ〜一気かよ〜w
 
よっ!いい飲みっぷり!
 
ぷはっ!うん、良い酒だった。これは明道院か。私も好んで飲む。
 
当たり!銘柄当てるとは、あんたも酒好きだな。
 
酒が嫌いな猫又がいるか。
 
そりゃそうだっ!笑
 
猫又、話の続きだがな。ここ最近、外来種の様子がおかしいんだ。あんたもこうやって倒れてた訳だし、何か知ってたら教えて欲しい。
 
…。お前達、鬼送りか。
 
うん、俺は二宮。こいつは明道院、こっちがオトワ。外来種の様子がおかしい原因を探してる。何か困った事があれば話してくれ、些細な事でもいい。
 
…ふん、困るも何も、ヒトはおかしい。本来自分達を護る為の祠を自ら壊して回ってるんだ。
 
祠を?
 
ああ。私も壊された。貢も無くなって空腹で倒れてたところよ。
 
その怪我は?
 
これは符を盗られた時に受けた傷だ。
 
ふ?
 
祠には護身符が一緒に備えてある。祠の神は周辺を護り、護身符は祠を護る役目があるんだ。
 
ふ〜ん。
 
おそらく祠を壊した者は村の者ではないだろう。しかし、祟りを恐れた村人は壊された祠に近付けず、そのまま…というわけだ。
 
護身符を破れるんは魔導士か紅緋はんやね。
 
外来種もだ。
 
それだけじゃ情報が少ねぇな。あんたの祠はこの辺りか?
 
そうだよ。
 
案内してくれないかな。
 
断る。何故人間の言葉を信じなければならないのだ。元はと言えば人間が祠を壊したからこうなったのだ。
 
尻拭いなら人間がやれ。