Theatrum

創作の引き出し。創作途中の話もあるので、突然文章が変わる事があります。

飛んで火に入る夏の虫

今日の甘戯はお使いの短期雇用。

紅緋が作った薬と珍しい薬草を届けにきていた。ベテランな甘戯であっても気が進まない届け先も稀にある…。

 

「いらっしゃい、こっちに座って」

「…どうも。」

 

明らかに客間じゃない。
こいつの部屋じゃないのか?

招かれたソファーに座り、目の前の机に頼まれた品物を並べて行く。

「これが薬草、こっちは薬草を液体にした飲み薬。そしてこれが森の卵と溶岩の華。品物は以上です。」
「ありがとう。遠いのにわざわざ来てくれて嬉しいよ」


名指しの仕事は基本断れないんですけどね。と心の中で呟く甘戯。


「これがお礼ね。」


机の上に小銭袋と数枚の札が置かれる。


「確認いたします。ところで、」


謝礼を確認しながら口を開く甘戯。


「ここ、客間じゃないですよね?」
「うん。僕の部屋だよ」
「そーなんですねぇ。」


何かを含んだ表情で返事をする客に寒気を覚える。


「ちゃんと客間はあるんだけど、今回は僕の部屋でいいかなと思ったんだ」
「はぁ…」
「提案がね、あるから。」


楽しそうに笑う客。


「僕、ダマラって言うんだけど、聞いたことあるかな?」


最悪。の二文字が頭に浮かんだ。依頼主の名前は伏せられていた為、おかしいとは思っていた…。表情には出さないように堪える甘戯。


「はぁ。確か城付きの術士でしたか…」
「それそれ。正確には契約術士みたいなもんだけどね。お互いギブアンドテイクでやってきてるから。」
「…。それで、提案というのは?」
「急かさないでよぉ。そんなに早く帰りたいの?」


クスクスと笑うダマラに帰りたいですとも言えず。


「君が言ったようにお城、つまり殿様と僕はお友達なんだ。僕が殿の望むものを与える代わりに、殿は僕にチャクラを提供してくれるんだ。」
「チャクラ…?」
「半年に一回あるだろぅ?」
「…マジョールの宴」
「そうそう、あれは殿が命令して民に祈らせてるだろぅ?実は僕が殿にお願いしてチャクラを集めさせてるんだよ。ふふ、ここからはオフレコね。」
「…。」
「あれ?ノーコメント?」
「術士は突飛な事を好みますから、あなたくらい有名な術士ならそういうこともするのでしょう。」
「へ~?意外な反応だな。」


キョトンとして甘戯をみるダマラ。
「僕がどうしてチャクラを集めてるかといったらさ、
「使い魔を操るためでしょう。ついでに言うとただの使い魔ではなく、生物に寄生させて操るタイプ。」
「あれ?知ってたの?」
「今分かりました。それで銀次の奴は死なないんでしょう?」
「そうそうw凄いなぁ、伊達に忍雅衆の小頭をひてないってことだねぇ。それに…君も大概突飛だということだ?」

 

正体がバレてる…。


「違います。仲間にそういうこと考える者がいるのでそうかなと思っただけです。…流石に動物やノウム以外にやろうとまでは思わないでしょうけど。」
「ふふ。まるで僕が変態みたいじゃないw」

 

変態だろ。

 

「銀次君はね、昔指名手配されていたんだよ。強い刀を手に入れる度に試し切りをしてたーくさん切っちゃったの。でも銀次君強いじゃない?簡単には捕まらないし殺せやしないって事で僕に暗殺の依頼がきたの。」
「でも彼面白いからさ、殺すの勿体無いと思っちゃって、銀次君の急所をくり抜いて擬魂珠とリンクさせて、僕が大切に保管してるの。急所を壊さない限り彼は不死身なんだよ。面白いでしょ?」
「…あいつはイカれてるから、それくらいなんとも思ってないんでしょうね。」
「正解!凹むどころか磨きがかかっちゃって、殿を説得するの大変だったんだよwなんだか焼けるなぁ。君達仲良しなんだね。」
「まさか。虫以下の認識です」
「ぶふ、銀次君可哀想~wそんな訳で、銀次君みたいな部下が他にもたくさん居て、その子達を賄う為にはチャクラもたくさん必要な訳なんだぁ」
「城にとって脅威の存在を貴方が制御するのは、城のリスクが大きい。」
「それだけ僕のこと信用してるんじゃない?w」
「貴方にとってはメリットあるんですか?制御させられてるだけなんじゃ?」


立ち上がり…甘戯の隣に座るダマラ。
「ふふ、僕は自分が楽しめればそれで良いからねぇ。僕の部下達は銀次君を始め、変な子が多いから、全く飽きないんだよ。たまに面白い玩具を提供してくれるしねっ」


笑顔を向けられて最高に不機嫌になる甘戯。
「今回の玩具が私ってことなら、丁重にお断りします。」
「甘戯君は強いし、可愛いし、食べたいよ?」
「お前の感想なんか聞いてない。失礼する。」


勢い良く立ち上がった甘戯の腕を強く掴み、今までにない禍々しいオーラを放ちながら黒い笑顔を向けてくるダマラ。


「まだ提案の話をしてないよ?」


威嚇しつつも冷や汗が垂れる。


「…ッ、さっさと言えよ」


舌なめずりをしたかと思えば当初の気の抜けた表情に戻ったダマラ


「座って」


様子を伺いながら椅子に座る甘戯


「ふふ、僕ね、そろそろ飽きてきちゃったんだ。部下は僕を楽しませてくれるけど、殿はつまらない。別に殿に頼らなくてもチャクラを集める方法なんていくらでもあるし。」
「何が言いたい?」
「あれ?察しが悪いなぁ。」
「ぁ、こらっ!!」


耳を舐めるダマラ


「良い匂い…ホント…美味しそう…」


甘戯に覆いかぶさるダマラ


「ば、ふざけんなっ!話をしろ!」
「赤くなってる…!?」
「うるせー!!」
「ぷぷ、銀次君の言ってた通りだぁーww」
「くそ、あいつぶっ殺してやる」
「つまりねぇ、銀次君達と一緒にひっくり返しちゃおうかなぁって、世界を。僕色々持て余してるし。」


再び禍々しいオーラを出され、甘戯は吐き気をもよおした。


「世界がどうなろうと知ったこっちゃ
「ホント?僕、優しいから甘戯君は殺さないけど、他のものは全部壊すよ?」
「君の家も、
「君の町も、
「君のお友達も…
「君が大切にしているもの全部全部壊して、僕だけしか見れないように閉じ込めるよ」


とんだヤンデレ…まさかの展開。超面倒くさい。帰りたい帰りたい帰りたい。


「私にどうしろっていうんだよっ!!」
「たまに僕と遊んで☆」
「…は、」
「ぇ、嫌?それじゃぁやっぱり皆壊し
「まてまて、そんな事でいいのか?もっとなんか、秘境で世界で一つの何かを採ってこいとか、部下にするから急所出せとか、そんなんじゃないのか?」
「僕は君が気に入ったんだよ?危険な目に合わすようなことさせないよぉ。あと、玩具は使い魔にしない主義なんだ。壊れるまでが楽しみだからね」


壊れるまでだと!?


「…今日が初対面なのに、よくそんな風に思えるな。」
「直感☆それに銀次君イチ押しだからね」
くだらね…
「早速今日は泊まっていってね。明日には返してあげる。」
何がどうなってこうなるんだよ…くそ…
「…嫌だって、言ったら?」

 

チュ

 

「甘戯…可愛いけどあんまり物分りが悪いと、すぐ壊しちゃうかもしれない」


「…横暴だ」

 

 

「甘戯、倉永城から手紙が来てるよ」
「無視していいよ。」
「これで5通目だね。中は読んだの?」
「読んでない。


手紙を開け、文を読むミズキ。


「どーせ、ダマラの件はありがとう、城に来て報告しろってんだろ。うるっせーんだよ糞爺が」
「あ、正解。」
「くそっ!こっちは悪魔に取り憑かれてんだぞ!!?お手紙一つで済まされることじゃねーんだよ!!家まで金銀財宝美味しいご馳走もって来いってんだ!!」


机に足を乗せて怒りを爆発する甘戯。


「城で馳走してやると書いただろう。何通送っても来ないと思えば、貴様は」


部屋のドアを開けて入って来たのは、きらびやかな勲章をつけた金髪の男性と黒髪の大きな男性。


「お、倉永常の方…?」
「やぁ、ミズキ君かな?私は倉永城将軍のシャルグだ。こっちはジャム。」
「以後お見知り置きを」
「初めまして!」
「何しに来やがった!!」
「吠えるな吠えるな。いくら手紙を送っても動きがないからこちらから出向いてやったんだ。貴様、任務を渡されたら報告までが義務であろうが。」
「だーかーらー、ダマラは大人しく私の言うことを聞いたって言ってるだろ!」
「そんな曖昧な報告で済まされるか馬鹿者!」
「済ませよ!武将様なんだからそのくらいやれよっ!」
「まぁまぁ落ち着いてください。シャルグさん、ジャムさん、中へどうぞお茶を用意しますので」
「あぁ、悪いな」
「ちっ、」

「じゃあ、僕お店みてるからね。」


紅茶と少しの茶菓子を置いて客間を出て行ミズキ。


「ズズッ、ブルーベリーか、美味いな」
「よく出来た子だろ。」
「あの子もダマラが絡んでいるらしいな。」
「うん、クソ馬鹿げた好奇心であの子が産まれてしまった。」
「不死の銀次もダマラにくだったらしいな。まだ死なないか。」
「死なないねぇ」
「不死の元はダマラの術だという噂があるが…?」
「いや、詳しい事は何も」


オフレコには従っとこ...一応。


「まぁ良い、今回はダマラの気まぐれを回避出来ただけでも上出来だ。」
「私の自由と引き替えにな」
「どんな条件を出されたんだ。」
「言いたくない…」


顔をうずめる甘戯


「そうされるとますます気になるんだが…」
「…甘戯、あいつは今世界で一番強いと思う。あの禍々しいチャクラと底知れない能力はヤバイな。間近で確認したが、正直手も足も出なかった」
「あぁ、前回の王国訪問時にも垂れ流して行ったよ。いつでも裏切れるって感じだったな。今のところ奴の興味が世界転覆では無く色んなところに向いてるのが幸いだ」
「そういえば、ダマラの部下って何人いるんだ?」
「20人強だ。」
「曖昧だな」
「正確には分からない。目についた奇抜な奴を気まぐれでスカウトしてるらしいからな。それを全部部下にしてる訳では無いようだが…」
「へぇ~?…気が重いよ」
「ダマラ邸に行ったのだろ?部下の人数は分からなかったのか。」
「それどころじゃなかったんだよ…」
「一体何をしてきたんだ…」
「ま、ディオーラがダマラのご機嫌を取りたい気も解ったから、今回は甘んじてやったよ。その代わり、下手な真似してダマラの機嫌を悪くしたりするなよ?」
「あぁ、倉永の武将として国の統制はしっかり取るつもりだ。…損な役回りをさせて悪かったな。」
「いいさ、これでディオーラに貸しが出来たしな」
「ほどほどに頼む。じゃあ今日はこれで失礼する」
「うん。今度は品物買いに来いよ」
「わかった。良い薬草を仕入れといてくれ。」

「ありがとうございましたぁ~。大丈夫だった?」
「うん。普通に話して終わったよ。面倒には変わりないけど…」
「ふ~ん?それで、金銀財宝美味しいご馳走もらったの?」
「あ!!」