Theatrum

創作の引き出し。創作途中の話もあるので、突然文章が変わる事があります。

他国でお仕事◆01

今日の甘戯は部下数名と他国でお仕事。

 

スレイプニルは気性の荒い者達が多い国で、小さなケンカから種族間の争いまでそこかしこで起こっていた。

 
お使い途中の町娘がぶつかったのはスレイプニルで最も恐ろしい術士と言われるサト・ナルガだった。サトが町娘へ手を向けると、近くにいた全ての者が悪寒を感じた。いくら屈強で喧嘩っ早いスレイプニルの住人でも、相手がサトとなると恐怖で動けなかった。

 

そこへ、突風が吹いたかと思えばサトの手から出た術を弾いて攻防するキウレ。今の内に逃げなと、いつの間にか娘の背後に居た水門が呟く。少女は小さくお辞儀をして一目散に駆けていった。


スレイプニルに飽きたサトはひと騒動起こして盛り上げようとしたが、キウレと水門に阻止された。決して平和とは言えないスレイプニルだが、サトにとっては刺激の少ない環境らしい。
 


サトが怒られている頃、甘戯は森へ薬の材料を採りに来ていた。

 

薬草を摘んでいると背後に象ほどの大きなノウムが近づいていた。薬草を摘み終え、立ち上がろうとした瞬間、大きな音を立てて襲いかかるノウムを甘戯は眉ひとつ動かさずに片手で破壊した。粉々になったノウムの欠片が雪のように辺りへ散り、空へ消えていった。


ガサッ…

 

再び甘戯の背後で動く気配がした。今度は粉々にせず素材を剥ぎ取ろうと思った甘戯は、気づかぬふりをしてゆっくり前進していく。


気配が動かなくなった事を不思議に感じて振り返ると、銀髪の少年が倒れていた。少年は打撲と擦り傷が多く見られ、息はあるが鼓動に違和感があった。
甘戯はその違和感の正体を察し、銀髪の少年を連れて帰った。
 

 
甘戯が宿場へ帰ると、サトが水門に怒られていた。宿場の前で騒いでいた酔っ払いをサトがボコボコにしたらしい。甘戯は呆れた表情で穏便に済ませるよう促した。


銀髪の少年をベッドに寝かせ、改めて様子をみる甘戯。付いてきたサトと水門に何処の子だと問われ、深苦の森で拾った事を伝えた。キウレが回復しようとしたが、水門が止める。


「回復術じゃなくても治るでしょう。試しましたか?」
「いえ、私は契約してないので無理だと思います。」
「どーゆーこと?」
「心臓が擬魂珠だ。」
「擬魂珠って…使い魔!?」


使い魔はお供としてノウムや動物に施す術で、知性を備えた生物には施さないのが暗黙のルールだった。銀髪の少年は明らかにヒト種だ。
使い魔は契約した者からチャクラを与えられて活動する。傷ついた使い魔は契約者のチャクラで回復出来る。
 
「擬魂珠をこんなことに使うのは頭のイかれたやつだけだろ。」

 

恐らく犯人は…


「またダマラかぁ。」

 

 

ナルガ一族には数百年に一人、チャクラを吸い取る力を持つ子が生まれると伝えられている。その子は貯めたチャクラを使い、悪国を滅ぼす使命を課せられていた。

 

言い伝えの子として産まれたサト・ナルガは郷を離れ、術士と出会うたびにチャクラを吸い、滅ぼす為の悪国を探していた。
 
旅の途中で自分の前に生まれた言い伝えの子、ダマラ・ナルガについて知る。ダマラはある城で側近として仕えており、近づく事すら困難であった。

何度か試みたが返り討ちにされ、何の為に使命を果たすのか分からなくなったサトは放浪していた。
 
そんなある日、節操なくチャクラを吸いまくる術士を倒してくれと頼まれた明道院 水門と出会う。行く場所もなかったのでしばらく世話になると、家族同然に迎え入れられた。
 
能力を恐れられて幼い頃から1人だった。水門の仲間になってからは自分を恐れず、対等に接する者達に囲まれ、居心地の良さを感じていた。

ナルガ一族の言い伝えについて聞かれて機嫌を悪くしたサトが、周囲を巻き込み大暴れすることもあった。激闘を繰り広げた挙句、半殺しにされかけてサトは機嫌を直した。


 
ナルガ一族が悪国とする国は、過去の言い伝えの子が作る国を指している。言い伝えの子が関わる国は悪に染まる事が多かった事から、一族の悪行を一族によって壊す役目があるとしていた。

壊し壊されが永遠続くならサト君で止めれば?と水門に言われ、結局サトは言い伝えに背く事にした。
 
そんな一癖も二癖もあるご迷惑ナルガのダマラが、この銀髪の少年と絡んでいるようで。

サトとダマラは切れない縁で繋がっているように感じた水門であった。

 

 

銀髪の少年は記憶を失っていたが名前だけは覚えており、ミズキと名乗った。行く宛てがないようなので、逢魔ヶ島に連れて帰ることにした。

 

桜雅や菊臣に診てもらったが解決策は見つからず、ヒトに戻す方法を引き続き探すことになった。2人が異様に興奮していたのは言うまでもないし、嬉々として方法を探し始めたのも言うまでもない。

使い魔にした当人から心臓を取り戻すのが手っ取り早い方法だが、現状では現実的でない。

 

 

ミズキが来てから数ヶ月が経ったある日、キウレとミズキは隣町へのお使いに森を経由していた。突然ノウムに襲われ、呆気にとられたミズキが動けず擦り傷を負う。一緒だったキウレが水門に怒られているのを見て、不甲斐なく思ったミズキは使い魔の力を上手く使う方法を教えて欲しいと甘戯に頼んだ。

甘戯は自分よりも桜雅の方が適任であると話し、桜雅に頼みに行った。

それなら実践だと、龍の角と鱗を採りに2人で華岩の山を目指す。

 


 
死にそうな目にあうたび、ミズキは無くしていた記憶を少しずつ思い出す。
「役立たず」「無能」「捨てないで!」
 
「ぁ…思い出した。俺…」
 

 
桜雅とミズキが留守にしている間、ディオーラの遣いが明道院を頼って訪ねてきた。

全国的に警戒されているダマラを討伐するように伝え回っているらしい。そこでミズキについても知る。

良い返事はできないが善処してみると伝え、遣いを帰らせた。

数時間後帰宅したミズキに話を伝えた。
 


ミズキはディオーラ城の長男である事を聞かされ、無くしていた記憶を思い出す。
 
ミズキが言うことに…

ディオーラ城へ訪れたダマラは城下町で買い物をしていたミズキを殺し、連れ去った。

擬魂珠の実験体として使い魔にしたが、ノウムや動物で見られるような能力上昇は得られず役に立たないと痛めつけた挙句、深苦の森に捨てたのだと言う。


ミ「水門さん、仕事を依頼していいかな。」


ミズキの復讐としてダマラ討伐に出たディオーラ部隊の多くが犠牲になった事を聞き、自分でダマラから心臓を取り戻すと決意するミズキ。1人では十分に能力を発揮できないのが使い魔だ。


「何言ってるんですか。ミズキ君は家族ですよ。」


水門にとってミズキからの頼みは断る理由の無いものだった。


「サト君がなんと言おうと、僕は君の力になりますよ。」
マ「え〜、水門が行くなら付いて行くよ。言い伝えは…もうどうでもいいけど。」
 
水門一行は話を聞く為にディオーラ国を目指した。