Theatrum

創作の引き出し。創作途中の話もあるので、突然文章が変わる事があります。

紅緋◆02


黄泉棟梁の息子でありながら、 魔人の血を吸収してしまったラルフは、 純血でない者として一族から捨てられた。

魔人は不幸を呼ぶ為忌み嫌われる性質がある。

 

ラルフに関わるもの達は皆死んでいった。

 

やめろ…

 

2度と他人と関わりを持つまいと思っても… 寂しくなって求めてしまう。 お前はお人好しに近づいて結局また殺した。

 

やめてくれ…

 

そうして今度は紅緋(べにひ)か。神楽女ならどうにかしてくれるとでも思ったのか?

 

紅緋は鎖で拘束され、 魔人族のルーシュに封じの札を貼られている。

 

なんてことはない、この様だ。 黄泉棟梁の元息子の癖にこれ程未熟な奴では用心棒にもなれやしない。

 

だま…れ、紅緋を…離せっ!

 

ルーシュはボロボロで這いつくばるラルフを無視し、 紅緋へ近づいていく。 紅緋はダメージが重く、立つ事も喋る事も出来ない。

ルーシュは片手で首を掴み上げた。

 

ッ…、

 

お前は弱いな。神楽女は何も生まないようだ。 

 

…クッ、

 

魔人の血を飲んでみるか?身の内の神気と反応して爆発してしまうかもな。

 

そいつを、はな、せっ

 

はぁ、紅緋。お前の子分は虫けら以下だな。 何度も同じ過ちを繰り返してなお生きようとする。 もう終わりにしてやろうな。

 

ぐあっあぁ…ッ

 

ルーシュに蹴り飛ばされたラルフは壁に激突した。 消えそうな意識を必死に保っている。

 

あぁ、良いことを思いついたぞ紅緋。お前を私の従臣にしてやろう。式神使いを従臣にできるなんて滑稽だぁ!

 

ルーシュは紅緋を掴んだままチャクラを注いでいった。

 

一生私に仕えてその知識を発揮しろ…ん?

 

ルーシュのチャクラは邪のもの。それに反応した神気が防衛の為に暴走し始める。

紅緋の目からは真っ赤な血が流れ出し、 ルーシュの腕を粉々に吹き飛ばした。 咄嗟に反撃の魔導を撃つルーシュだが、 神気に護られたミルスに当たることは無い。

 

一歩踏み出したかと思えば、 ルーシュの目の前に移動し、刀を振りかざす紅緋。重い切先で切り込み、 背中を蹴り飛ばすとルーシュは上半身と下半身に裂かれた。 全くなんの抵抗も出来ないまま、 連続する攻撃に跡形もなく消えていった。

 

邪にあてられた紅緋の神気は防衛の為に暴れ出す。 近くに気配があれば一気に襲いかかり消し去ってしまう。 神気が中和されるか、減少するまで暴走は止まらない。 目から溢れる血は増加した神気を流し出しているのかもしれない。

 

 

紅緋が意識を取り戻した時には屋外に出ていた。 辺りが静かで、空には綺麗な月が出ている。 強い脱力感に襲われながらも状況を把握しようと、 辺りへボヤけた目を凝らす。すると、 真下から微かな声が聞こえた。

 

気づけば両手は真っ赤に染まり、下半身が生暖かい… 視界がハッキリした時、 紅緋はとてつもない衝撃に襲われた。 無抵抗のラルフにのしかかり、内臓を引き剥がしていたのだ。 

 

元に…戻り、ました…ね…、

 

ラルフは微かに笑っていた。

紅緋は自分のした事を理解し、悲痛の声で泣き叫んだ。 それと同時に全魔導を使ってラルフを従臣へと変えていく。

 

自分の手でラルフを殺した。また1人にしてしまう…。 悲しませてしまう…私も1人になる…嫌だ。ごめん、 私の身勝手で酷い事をしてごめんなさい。仲間でも友達でも無い、 ただの身勝手女だ。ごめん、ごめん。

従臣へと姿を変えたラルフは紅緋を抱きしめた。

 

ごめん、ごめん…ごめん。ごめん!

 

ミルスは謝り続けた。

 


ミルス、僕は感謝しています。 自ら死ぬ事を許されない身体で、 弱い僕は誰かに助けを求める事しか出来ずその度に不幸を起こしていました。

従臣となった今、種族も血もありません。 自分ではどうする事も出来なかった負の連鎖を止めてくれて本当に 嬉しかったですよ。

今度こそ護りつづけます。

だから… 笑ってください。