Theatrum

創作の引き出し。創作途中の話もあるので、突然文章が変わる事があります。

桜雅◆01

小さい頃から探究心が強い子どもだった。


なんで雨が降るの?火は燃えるの?


両親は子どもの好奇心を尊重していた。

子どもはチャクラの存在を知り、持ち前の探究心により術を扱うようになった。

子どものうちから扱うのは危険だと周りは猛反対した為、子どもと両親は見つからないように、迷惑をかけないように練習することを家族のルールとした。


村人が薬草や薪を拾いに森へ入ったある日、ノウムに襲われた。子どもは術を使ってノウムを追い払い、村人達を助けた。

村人は大変驚き、子どもと家族を責め立てた。追い払ったノウムは村を襲いに帰ってくるだろうと。ノウムはその言葉通り、村に大群で押し寄せてきた。

村人達はなす術なく逃げ惑うのみだった。


子どもは持てる力を全て使い、術を発動した。ノウムは跡形もなく消滅した。


子どもは眩暈に襲われ、その場に倒れ込んでしまった。



子どもが気がつくと、真っ暗な世界に浮いていた。目の前には大きな球体がいくつかと液体が浮遊している。美しい光景に目を奪われていると、身体がゾクりとこわばった。


大きな白い塊と大きな黒い塊が、子どもを睨みつけているように感じた。


黒い塊が指を刺すような仕草をした瞬間、子どもの両目に激痛が走った。子どもは痛みに耐えきれず意識を手放した。



必死に子どもの名前を呼ぶ声がした。

声の主は子どもの母親のもの。ノウムを消滅させてから、倒れ込んだ子どもを抱きかかえ、両親は名前を呼び続けていたようだ。


子どもが目を開けると両親は安堵して強く抱きしめた。子どもの瞳は金色に変色していた。


村人は命の恩人でありながら、強力な術を放った子どもへ手放しに感謝を述べることができずにいた。


村長は言った。

術を扱う者を村においてはおけない。昔忠告したことを無視していることで信用することができなくなった。すぐに荷物をまとめて村から出て行くようにと。


子どもと両親は村を出て、町を目指した。



町に住む手続きを終え、数日ぶりにゆっくりと過ごすことができた。子どもは両親に申し訳なくおもっていたが、両親は子どもが元気なのが一番だと笑っていた。


新しい生活が始まる。


町には薬屋の魔術士がおり、子どもは通い詰めて薬草を学んだ。はじめのうち、薬屋の魔術士は迷惑がっていたが子どもの好奇心に負け、様々なことを教えてくれるようになった。子どもは薬屋で働きながら学び続けた。


生物は皆、体内でチャクラが作られる。そのチャクラを使って自分の能力を発揮した。それとは別に精霊のマナを扱う方法もある。その為には精霊と心を通わせる必要があった。


子どもはなかなか精霊を見ることが出来ず苦戦していた。瞳が金色の者は厄災の証とされ、精霊は金色の瞳を嫌っていた。子どもは虚空に向かってひたすら語りかけ続けた。

その結果1人の精霊が子どもに応え、教えてくれた。


12歳になる頃には、子どもは様々な精霊と心を通わせるようになっていた。薬屋の魔術士は教えることがもう無いと、別の町にいる魔術士を紹介してくれた。子どもは両親の元を離れ、新しい街へと旅立った。



薬屋の魔術士の紹介状を持ち、子どもと精霊は新しい町を目指した。

道中不穏な噂を耳にした。目指している町は、外来種と近く戦をするであろうと。外来種は領地を増やそうと活発に動いている。しかも外来種は一枚岩ではわなく、たくさんの種族が睨み合いながらそれぞれに領地を獲得していっている。外来種にとって人間は小動物扱いだが、魔術士は外来種と渡り合える力を持っていた。しかし、魔道士の数はとても少ない。子どもは先を急いだ。


子どもは紹介状の魔術士を訪ねたが、留守であった。宿屋をとり、昼食を食べていると外来種と戦う有志を募るビラが配られていた。


店の従業員が、子どもがそんなものを見るものでは無いと声をかけてきた。自分は魔術士だから戦えると伝えたが、あまりに子どもで信じてもらえなかった。頭にきたので有志の受付をしにギルドへ向かった。ギルドでも信じてもらえなかったので術を見せた。

受付の人が驚いて呆気に取られていると、別の人に優しい声色で話しかけられた。その人は子どもなのに術が使えて凄いと言ってくれた。その人も魔術士だと言うので紹介状の話をすると、まさにその人であった。

 


魔術士は対外来種である町の民兵隊を助ける仕事を請け負っていた。町にいる魔術士はこの人のみで、子どもの術を後方支援として頼りたいとのことだった。子どもは前線が良いと言うが、聞き入れてもらえなかった。外来種が攻めてくるその日まで、修行の日々が続いた。

 


 


攻めてきたのは獣人種だった。戦うことに生きる意味を見出し、種族繁栄を目的とした種族らしい。リーダー格を倒せば種族の勢いは弱まるだろうということで、リーダー格を探して殺す作戦をとった。

 


そもそも民兵隊では戦力に差がありすぎた。次々と倒れていく民兵隊に、恐怖で身体がこわばってしまう子ども。魔導を使い、道を切り開く魔導士だったが、戦況が好転することはなく、徐々に町は侵略されていった。

 


魔導士は当初の作戦通り、なんとかリーダー格を倒すことが出来た。そうすれば獣人種の勢いは弱まる。しかし、思っていた展開とは違った。

 


獣人種の中でも世代交代があり、そのリーダー格は古い文化を採用していたことで疎まれていたらしい。この戦いを新リーダーを立てる機会として企てていたらしかった。つまり、勢いが弱まることは無くむしろ勢いついてしまった。

 


そこから一気に町はのまれ、陥落した。

 


魔導士と子どもは生捕りとなり、獣人族の領地へ連れられていった。その後、魔道士や町ががどうなったかは知るよしもなかった。

 


 


金の目であることから獣人種は子どもを人柱と呼んだ。子どもは窓のない部屋に通された。部屋にはトイレや布団、水瓶があり最低限の生活が可能であった。獣人が朝と夜に食事を運んできた。子どもはその部屋で過ごすだけで良いと言われた。

 


部屋には精霊を呼ぶことが出来ず、魔導も上手く扱えなかった。部屋に入るまでは魔導を使えていたことから、子どもは仮説を立てた。自分のチャクラが減っている、または吸収されていると。

 


ただ減っているだけなら脱出防止などが考えられるが、吸収されているとすれば理由が知りたい。子どもは食事を運んでくる獣人へ率直に問いかけると、人柱なのだから当然だと返された。

 


人柱、チャクラが減る、当然…となれば、何かの為にチャクラが必要でその人柱にされているのだと子どもは思った。チャクラが尽きれば子どもはお役御免…殺されるかもしれない。ひとまずチャクラが尽きないように心がける事にした。

 


吸収される状態でチャクラを扱うのが難しく、魔導訓練に苦戦した。チャクラが底を尽きないように注意しながらでは疲労が半端なかった。子どもがよく眠るようになり、獣人が用意する食事が少し豪華になった。栄養をつけさせようとしていたらしい。子どもは構うことなくよく食べよく寝て、魔導訓練に集中した。

 


部屋に入れられてから10日後、チャクラを精密に扱えるようになったからか、以前より疲労が溜まりにくくなった。余剰分のチャクラを取っておくことが出来ないかと思うようになった。

 


チャクラを意識するには体内がやりやすかった為、へそ下の丹田に意識を集中し、チャクラを集めるようなイメージをし始めた。

 


 


部屋ですることが無いと、子どもは読書を求めたが獣人には本がなかった。基本口伝だそうで、簡単な記号以外に文字を扱うことも無いらしい。

 


その夜、雑に部屋のドアが開かれると、獣人の新リーダーが現れた。本とは何か、文字とは何かと質問され、応えてみせると教えろと言われた。子どもは教える代わりに、獣人の伝承などを知りたいと伝えた。新リーダーはまたくると伝えてすぐに出ていってしまった。

 


次の日、新リーダーは獣人の伝承に詳しい老人を連れて部屋にやってきた。この者から話を聞き、文字に起こすように言われる。その文字をもとに文字や本について学ぶと言った。それから、朝は老人から聞いた話を文字に、夜は新リーダーの側近へ文字を教える日々となった。

 


獣人の伝承は大変多く、尽きることがなかったが子どもにとって興味深い話ばかりで飽きがこなかった。側近は文字を理解し、新リーダーや周りの者に教えていっていた。

 


新リーダーが勢いよくドアを開けて入ってくると、文字を活用して戦況が好転したと言う。敵に偽の情報を与えたり、味方同士の情報共有に活用し、領地拡大に貢献したと。獣人達の勢いに押されて子どもも嬉しい気分になった。

 


◆◆◆

 


獣人族との距離が少し近くなった頃、拠点を変える為に部屋を出ることになった。

手足に枷をつけ、枷に繋がる鎖を持った強そうな獣人が左右について歩かされた。

 


辺りを見回すとつい先日まで戦があったような、荒れた景色が広がっていた。獣人族が勝ち取った領地に移住しようとしているのだろうと思った。

 


そうして歩いていると、突然何かが飛び出し滅びろーー!と言う大声と共に大爆発が起きた。生き残りの自爆に巻き込まれた。

幸い子どもは爆発から離れており、戸惑う獣人族からそっと離れることができた。そのまま近くの森を目指し、獣人族とはおさらばすることができた。

 


◆◆◆

 


身体に拘束具をつけたまま森を歩き続け、疲労と空腹で倒れ込んだ。かすかに水の音が聞こえ、その場所を目指して踏ん張り歩いた。

川を見つけて急いでその水を飲んだ。とても美味しく身体に染み込むようだった。

川の近くには集落があるのではないかと川下へ向かって歩いた。

 


しばらく歩くと霞がかかり、目の前しか見えないほど当たりが白く覆われた。川の音は聞こえていたが、気がつくと川から離れた場所を歩いており音もしなくなった。

頼りにしていた川から離れてしまい、恐ろしさに心が乱れた。

 


コーン…

…コーン…

 


木を叩くような乾いた音が響いてきた。

だんだんと音は大きくなっているのに、

辺りには何も見えない。

ついに耳の隣で音が鳴ったかと思えば、

目の前が真っ暗になった。

 


 


目が覚めると座敷に敷かれた布団の上だった。天井は朱色に染まり、襖は桃色や菫色などカラフルに塗られている。少し空いた窓からは桜の降る景色が見えた。


拘束具は外されており、汚れた服も浴衣に変わっていた。掛布を羽織り廊下に出る。