逢魔時の城下町03
幻無の護衛をして白河に会ったんだが、白河は魔導士の心臓を3つ、それも新鮮なものを持っていた。白河は毒牙城の研究者だ。つまり、
女将:毒牙城は戦準備をしているのか。
どうだろうなぁ?厄介な使い魔でも創り出そうとしているとか?
紅緋:使い道は使い魔に限らないと思うわ。
桜雅:マナ消費の多い魔導とかもあり得るな。
ちなみに心臓が本物か確認した後、幻無に女を与えて刺客に襲わせてる。証拠隠滅を図ったようだ。
女将:幻無…はヤブ医者だったか?
うん。一応技術と知識があるから選んだんだろうな。しらばらく実家の里で匿うことになった。
桜雅:とりあえず毒牙城の情報を集めることだな。甘夜は毒牙城付近に入り込め。
うん。
桜雅:紅緋と私は心臓の使い道を研究して共有する。
◆
女中になって忍び込んできた。シンという者が関係しているらしい。
シン?
城主の小姓なのか…詳しくはわからないが、魔導が関係していて、そいつをコントロールしたいってのは分かった。
人なのか?
んー、種族は分からんけど、なんらかの個体なんだろうなぁ?ま、引き続き調べるさ。
情報薄くないか?
それが、シンに関しては知ってるものが少なくてなぁ。
腕が落ちたか?
失礼だな!
◇
これはこれは。なにやら嗅ぎ回っている賊がいると聞いたが、甘夜殿ではありませんか。
会ったことはないと思うが?
わしはよく知っておりますよ。甘夜殿のふぁんですからなぁ。
訳のわからんことを。
そなた、鬼里にいたなぁ?
…。
鬼里の前は園田村の拾い子だろぉ?
…。
お主は捨て子では無い。
は?
お主は巨大鳥類の羽から生まれたのだ。
はぁ…なんのことだ?
人柱に適任ということよ。
人柱ってなんのだ?
お主がわしの元に下るというのであれば教えよう。
お前の下についても私に利益がない。
お主が知らない事を教えてやろうと言うておる。
自分で調べるからいらないよ。
そうか。なら仕方ない。
パンパンと手を2回叩くと、襖が開いて男が入ってきた。
分からせるしかなかろうなぁ。
◇
ボコボコと殴りやがって…
身体中痛い。致命傷を避けて刃で刺すし、鞭で打つし、殴る蹴るのお祭りだ…。
どうかな?甘夜殿は意地を通せておるかな?
お陰様で〜
ほほ、元気で良いなぁ。では次の段階へ行くか?ことね、おいで。
◇
あぁああああぁぁぁぁぁ、、!!!
ぐぅううあ、あぁぁあっ!!
ことねと呼ばれていた少女は、黄色く痺れる光を操れるようで、それを甘夜に浴びせては弱らせていった。
はぁ、はぁ…お前、飯食ってんの?
無表情で甘夜を見つめる少女は、細く顔色が悪い。
ああっ!!ぐぅ、、話しかけるくらいいーじゃねーかっ、腹減ってんだよっ、
バチバチッ
ぐぁっ!!かは、…
少女は丸一日甘夜を痛みつけ、次の日はまた殴る打つの拷問に変わった。数日置きにことねが来たところを見ると、あの光は何日も使い続けられないのかもしれない。体力かマナの問題か。どちらにせよ、健康的な子どもの様相ではなかった。
甘夜殿。7日経ちましたよ、水だけでよく耐えてらっしゃるわ。
くそ禿げ。
元気があって良いのぉ。だが体はボロボロじゃわ。さて、そろそろ人柱の準備をしましょうや。
あ?準備?
まずは身体を清めておいで。
体の自由は奪われたまま、風呂に入って女中に洗われる。白い襦袢を着せられ、服に隠しておいた道具は全て取られた。ゆえにまさに丸腰。
どこだか分からないが、恐らく城の地下と思われるところへ連れて行かれると、城主がいた。
砂地が多いこの地も、昔緑豊かだった。土が痩せ、植物が生えず、米が育たない土地になってしまった。わしは神の怒りだと感じたのだ。貪るばかりで神への捧げ物を一切してこなかった報いだと。そしてある日…見つけたのだ。シンを。
城主は大きな襖を開けた。そこには白い肌を持ち、金の瞳をした短髪の少年がいた。少年はガラス筒の中でじっとこちらを見つめている。
シンはなぁ、神へ捧げられた人柱なのだ。シンが人柱になってから、この地に緑が少しづつ戻ってきたのだ…やはり神はお怒りであった。しかしなぁ、シンのマナが尽き掛けている。他の人柱が必要なんだ…マナを大量に持った"厄災の子"がなぁ。
厄災の子?
お前は巨大鳥類の羽根から生まれたといったろう?厄災の子はみな大地の恵みから生まれるそうだ。シンは大樹の葉から生まれたそうだ。厄災の子はマナを大量に持って生まれる故、争い事を招くといわれている。しかしどうだ?人柱になればどんな厄災もないだろう?厄災と忌み嫌われることもない。こちらは神への捧げ物ができる、お互い都合が良い関係だろう?
その子は生きてるのか?
生きているよ。
ずっとガラスの中にいるのか、
そうじゃよ。
都合いいのはお前だけじゃないか。ガラスの中に居続けることがなんでその子にとって良いことなんだよ。
わしらに愛されるだろう?ガラスの外に出れば皆から暴力を振るわれ、嫌われるのだぞ?
んー、もういいか。話にならん。石竹、やれ。
は。
暗闇から2人の男が現れ、その場にいた全員の首をかき切った。
ひぃっ!
小頭っおまたせっす!
砂殻。ことねは?
もち、ちゃーんと保護したっすよぉ。
甘夜の拘束具を解き、城主を足蹴にする。
ひいぃ!!
シンという少年はガラスから出ても生きていられるのか?
わ、わしをころすな!どうなるかわかってるのか!?
質問に答えろ。
ぐひゃあっ!!、死なない、出てきても死なん、じかし…神の怒りを買うぞぉお!!
お前のようなやつを掃除した方が、神も喜ぶんじゃないか?
そもそも、私らは神を信じてないよ。
ひぎゃあっ!!
城主を殺め、ガラスを壊して少年を救出。ぐったりと甘夜に倒れ込んだ。少年は自力で立つことができず、息も上がっている。
石竹、神がどうのといっていたことと、人柱について調べてくれ。
はい。甘夜様こちらへ。
は?
立っているのもやっとでしょう?その荷物だって重いでしょうに。
少年を荷物と呼ぶな。はぁ…しかし本当に疲れた、ひと段落したら絶対休みを取ってやる…
7日間拷問はきつかったっすね〜!てゆーか小頭、顔が赤いっすね…なんか盛られてます?
…砂殻、心臓は?
ちゃんと確保しましたよ。偽物と入れ替えときました。
まぁ、城主が死んでちゃ戦も何もないだろうけどな。
っすね!
…人柱に、ことねに、シンか。厄災の子も気になるし、石竹砂殻頼むわ。あたま、まわら、ん…
小頭!
◇
甘夜が訪れないままひと月が経った。
恋焦がれている自分が馬鹿馬鹿しくなる。
毎日置いてあった小石が、7日前から置かれなくなった。もう飽きられてしまったのか…。
◇
仲間が潜入して助けに来た時には薬漬けにされ、しびれと空腹でまともに動けずにいた。
城下町に戻り、体を綺麗に洗ってから睡眠薬で寝かされ丸一日寝ていた。翌朝様子を見に来た石竹はもぬけの布団を見て発狂した。
紫水晶が客の見送りを終えると、部屋に次の客がいると告げられた。少しは休ませろよと毒づくが、小石の人よと言われ、無表情で足早に部屋へ向かっていった。
スパンと襖を開けるが、お膳の前に客の姿はなかった。静かに襖をしめ、ゆっくり奥へ進むと苦しそうな息遣いが聞こえる。
旦那?
はぁ、はぁ…ふっ、んん、
あきれた。1人でしてるのか?
ぁ…う、むらさきぃ…
待ってられなかったの!?酒も食事も食べないで!
むらさきぃ…
…旦那?様子が変…
体が…熱いぃ…
なぁ
ひゃ!!!
あんたが小頭の言う紫か?
はぁ?
紫かって聞いてんの。
あんた誰だい!勝手に入ってきたのか!?
質問に応えてよ。
男衆を呼びに行こうと振り向いた紫を、謎の男が組み敷いてとめた。
余計なことしないでさ、質問に応えてよ。
離せ!馬鹿野郎!!
砂殻。殺すぞ。
甘夜が低い声で唸ると砂殻と呼ばれた男はすぐさま紫から離れた。
もういい、帰れ。
でも!
トン
砂殻の顔横にクナイが2本飛んできた。
っ、分かりました。紫殿、失礼をお詫びする。小頭は媚薬を盛られている。出来れば抜けるまで相手を願いたい。金は用意してあるので、よろしく頼みます。
砂殻っ!
すみません!!
音もなく消える男。
…何を怒ってるのさ。
カッコ悪い。
媚薬盛られたこと?
ちがう…
じゃあなに。
部下に運んでもらった…
…歩けないの?
体が痺れる。良くはなったんだが…
って怪我してんじゃねーか!?こんな…もしかして捕まったりとか、拷問とかされたの!?
違う。…転んだんだよ
うそだ!!
ねぇ…
なに!?
…キスして
紫水晶は甘夜の体を気遣いながら、薬が抜けるまで一晩中相手をした。朝になる頃には甘夜は睡魔で眠り続け、紫は甘夜が手をつけなかった食事をぼんやりしながらとった。暗くて気づかなかったが、甘夜の身体には縛られた後やひどい切り傷、焼き傷が増えていた。痩せたようにも感じる。丁寧に体を拭き、傷薬を塗り、包帯を巻きなおしてやった。そして、同じ布団で眠りについた。
その後甘夜は目を覚ましたが、紫の体を気遣い朝になるまでゆっくり紫と過ごした。朝日が登る頃、お礼を言って去っていった。
◇
薬を抜くのは俺の仕事だったのにっ!!小頭浮気なんて酷いや!!
浮気も何も、お前は私のなんでもないだろ
酷い!身体だけが目当てだったの!?
お前がな?
違うもん!俺はちゃんと小頭のこと好きだもん!
そりゃあ恋慕とは違う憧れかなんかだよ。
ちーがーうーもーん!!
◇
なんだ。お主は厄災の子であったか。
や、分からないんですよね。言われただけだし、魔導も使えないし。
それは主が訓練をしておらぬからであろう?
たしかに魔導の訓練はしてないけど。そういう問題ですか?
厄災の子は身体に印があると言う。生まれ持っての印はないのか?
印…?
印がないのであれば違うのだろうよ。そも、生まれなど些細なことであろうや。
む。確かにな。それはさておき、私が聞きたいのは人柱について。毒牙城城主は、土地の枯渇は神によるものだから捧げる人柱を置いたといっていた。そうしたら緑が戻ったと。
其奴がいっているのはただの戯言だが、人柱は実際に存在する。
別の話?
そうだ。菫、藍、紅の3領地にはそれぞれ対応した石碑がある。そこには領地の存続を保つ人柱を置くのだ。
紅は誰が人柱を?
紅の人柱を管理しているのはグアド故、わらわは分からぬ。領地の人柱については機密事項だからなぁ。余程の者でないと情報は得られまいよ。
ふーん、ちなみに菫と藍の人柱については知ってるの?
菫はロンゾが管理していたと思うが…数百年前の記憶だからなぁ。まぁ、菫が滅んでないということは未だ管理されているということであろう。
ロンゾかぁ。
藍は人族の王が管理しているのではないか?
いやぁ、それが聞いたことないんだよなぁ。ウル様は知らない?
人族は野蛮で小賢しい故、興味がないのぉ。
そうですかぁ、人族は調べやすいから良いとして、グアド族とロンゾ族については改めて調べる必要があるかもしれないね。ありがとうございます!勉強になりました。
ほほ。またなにかあれば来るが良い。菓子を持ってな。
はい!
◇
と、いう訳だ。
女将:お前、ボロボロじゃないか。
身体張ったから報酬はずんでもらいますよ。
女将:分かった分かった。
桜花:それで、シンとことねはどうなったんだ?
まだ何かに怯えているのか話をしないんだ。そっちはもう少し時間が必要かな。
紅緋:心臓はその人柱に使う予定だったのでしょうか?
マナを使うとはいっていたなぁ。ロンゾ族とグアド族について調べたら人柱についても分かるかもしれない。心臓の使い道も分かるかもな?
女将:藍の人柱についても調べておく必要があるな。
ここ、緑領だし大丈夫じゃないのか?
女将:いつ藍の奴らが暴走するかは分からんだろうが。
そ、そうか。
紅緋:そういえば、緑領にも人柱は存在するのでは?
……。
女将:範囲が広すぎる。
桜花:藍、菫、紅の3領地以外が緑領だからな…。
紅緋:甘夜さんの力ならいけませんか…?
無茶言うなよ…。とりあえず実家の里に連絡してみるよ。準備には時間かかるだろうがなぁ。