Theatrum

創作の引き出し。創作途中の話もあるので、突然文章が変わる事があります。

劇場◆第一章◆01

〜想い〜

クソっ!!!

机を強く叩く少女の拳は強く握られており、不服な思いが見て取れる。

このままではいけない。いけないんだ。このままいってもきっと殺される。殺される前にヤらなければ…。私達にはもう…それしかないんだ…。

 


〜取り戻した平穏〜

宿場は旅商人やお遍路さんなどが宿泊地として使う。そこを取り仕切る少女は魔導を使い、経営と防衛で宿を支えていた。

 

人攫いの輩が利用する時もある。客としてきちんとおもてなしした後、闇に紛れて"しかるべき者を然るべき場所へ"開放した。解放されたうちの数名はそのままこの土地にとどまる。

その界隈では鬼の道として恐れられ、宿場を利用する人攫い共は徐々に減っていった。

少女の意図しないところで奉公人が増え、賄いの用意に奔走した。宿の経営も軌道に乗っていった。


桜雅殿!ノウムが出ました!


宿の扉へ騒がしく駆け込んできたのは奉公人の1人。大きな城が近くにあれば、武士がノウムを狩る。しかし周囲にあるのは多くの砂と少しの緑だけ。その為この宿場は自衛しなければいけなかった。


落ち着け。彼らが向かうだろう。


当初、宿場においてノウムやゴロツキに対応できるのは桜雅のみだった。研究者気質の桜雅は様々な場所へ情報収集に赴くため、頻繁に外出を望んだが、桜雅がいなくなればすぐさま宿は破壊されてしまう。

そこで、客の中で腕の立つ者と契約し、宿場を守る部隊を作り上げた。部隊衆は主に警護や討伐を担っている。

 

〜続かない平穏〜

桜雅は、経営をある程度軌道に乗せると宿を奉公人に任せて自分は研究に没頭した。


桜雅は世界の全てを解き明かしたかった。明日の天気やパンの香り、アリの生き方やキリギリスの人生。ありとあらゆる事が彼女の好奇心を刺激した。

 


ところで、桜雅には秘密があった。

 


誰にも言った事のない…否、言うことを許されない秘密だ。秘密を持っている事を示唆する事は一切できなかった。口頭はもちろん、書く事も、描く事も、暗号を使う事もできない。"それ"を"それ"と伝えようとすれば必ず激しい苦痛に襲われる。

秘密は誰にも秘密なのだ。

ならば、と彼女は考えた。

自ら"それ"の答えに辿り着き、

この不毛な世界を終わらせてやるのだと。

 

ある時、桜雅が昔色々と悪さをしていたということを客に大勢の前で話されてしまった。

奉公人達は不安の顔色になり、

自分達もいつか殺される、

何かの研究の為に殺される、

ノウムから気をそらすための囮りにされる、

など言って離れていった。

桜雅は嗚呼またかと思うだけで別段変わらなかった。

 

 

みんなの前では気丈に振る舞うが、精神的にはズキっときていた。

新しい事が軌道に乗りそうになると水を刺される。全部あの白と黒のせいだろう、絶対許さない。

部隊衆の1人が話を聞きに部屋まで来た。

 

何があっても桜雅を信じる。

桜雅がクズなら、こんなに仲間は増えていない。誰かの言葉よりも、自分達の直感を信じるさ。

 

 

宿場や桜雅をよく思わない輩が現れ、宿場は以前にも増して危うい場所となっていた。相手は知性の低いノウムではなく、敵対する武士や腕の立つ刺客となったのだ。

 

そしてその時が来た。

 

ある晴れた月の隠れた夜。宿場は武士に取り囲まれ、大量に火を放たれた。もともと広くは無い宿場は瞬く間に火を広げていった。抵抗する間もなく、宿場は堕ちた。

 

次の日の朝、とても晴れた清々しい空だった。宿場の住民は桜雅の演説を聞いていた。

 

丁度手狭になっていた宿場は都合よく断捨離された。我々は住処を失ったのではなく、次のレベルへ登る為にあえて手放したのだ。思い出は優しい、今の君達には必要のないものだ。今の君たちに必要なのは自分の生き様を決める為の覚悟である。私は君たちを守らない。部隊衆もまた君たちを守らない。君たちは君たちの足で歩むべきである。その覚悟があるならば、私達は全力でサポートしようじゃないか。なぁ、部隊の諸君。

 

おーーー!!!

 

 

👤おかしいっ!1人も死体がないとは。

👤いったいどう言う事だ!!

なぁに、簡単な事だ。"魔女は宿場の住民を一瞬のうちに消してしまった"だけ。

👤魔女!?

👤生きていやがった!殺せ!!

愚かで非力なお前らに、私は殺れないよ。

さようなら。