劇場◆第四章◆04
遊間を目指して歩くとすぐに妖魔が襲ってきた。身につけたばかりの魔導で負傷しつつもなんとか回避する。
負傷した傷が激しく痛みだし、膝を付く。
😈その痛み、とってあげようか?
だれ!?
😈君の名前を教えて?
人など見当たらなかった森の中で突然現れた人物。柔らかい笑顔を向けてくる男の後ろには怪しい気配が感じられた。
男の申し出を断り続けると、みるみるうちに表情を変え、更に痛みを与えてきた。
😈痛みだけじゃつまらないから、絶望的な気持ちにさせてあげる。どうやらキミは凄まじい呪いにかけられてるね。
呪い?
😈心臓に何か刺さってる。そのままにしてると死んじゃうね。
テオの手助けもあって男を追い払うことができたが、悪魔の言葉に動揺を隠せないミラ。
フラつきながら湖に近づく。痛む傷口を湖に浸す。
不思議そうな顔でミズキを眺める妖精。
🧚♀️死んじゃうの?
え?
突然話しかけられた相手が小さくて驚くミラだが、食いつき気味で質問してくる妖精にノせられて答える。
🧚♀️なんで死んじゃうの?
知らないよ。勝手に言ってただけだし。
🧚♀️心臓見せて見せて?
は!?やだよ!
🧚♀️見るだけ見るだけ!
妖精はミラの胸に耳を当てた。
🧚♀️…金の…針…
金の針?
川に落ちた時のことを思い出すミラ。
🧚♀️見たことあるよ。ね?
🧚♂️あるある。
え?どこで?
🧚♀️石版!
🧚♂️遺跡!
石版遺跡?
🌟石版都市じゃないか?
🧚♀️🧚♂️そうそれ!
テオ知ってるの?
🌟1000年前に滅んだ遺跡だ。空に浮いていたらしい。
空に?
🧚♀️石版都市の天帝にも刺さってたよ。
🧚♂️覚えてる覚えてる。
なるほど…。石版都市行きたい。
🧚♀️それよりテアトルムだよ。
🧚♂️そっちの方が早いよ
🌟テアトルムってなんだ?
🧚♀️遊間にある学園!
学園?アカデミー?
🧚♂️違うよ。学園!
🌟どう違うんだよ。
🧚♀️全く違うよねー
🧚♂️見てみればいいじゃんねー!
行き方知ってる?
🧚♀️知ってる?「知らなぁい」「あっち!」
妖精に引っ張られて辿り着いたのは小さな洞窟だった。
「ここ?…あれ?」
気づくと妖精は消えていた。
薄暗い森の中、急に淋しさがこみ上げてくる。この洞窟の先に何があるのか…ここでじっとしているくらいなら洞窟に入った方が…
忘れていた傷がまたズキズキ痛み始める。
「どうした?」
緑色のとんがり帽子を被ったドワーフに話しかけられた。
「そこに入らないならどいとくれ。ワシそこに入りたいんだ」
「この洞窟はどこに繋がっているんですか!?」
「知らんね。君の望むところに出るじゃろ。」
そう言って洞窟に入って行ったドワーフ。
「チミ、この洞窟初めて?」
行ってしまったかと思えばヒョイと顔を出してくれた。
「初めて…ていうか、森で迷っちゃって…ッ」
「怪我をしてるのかい?どれ、見せてみ。」
懐から薬のような物を出して塗ってくれた。
「少しすれば痛みは引くじゃろ。ただし、痛み止めじゃからな、医者に診てもらえよ。」
「ありがとう。」
「うん。じゃあな。」
「あ!あのっ」
「そうじゃ、チミ、この洞窟初めて?」
「はぁっ、はい!初めてです。」
「そうか、この洞窟はな、本来なら存在しない曖昧なものなんじゃよ。簡単には絶対現れぬ。チミのような魔導師やワシみたいなもんが呼び出せるんじゃ。」
「魔導師…」
「そうじゃ。洞窟は望む場所に繋がる。だからワシが入ったらちょっと間を置いて入れよ。ワシの望む所に出ちまうからな。」
「分かった。ドワーフさんありがとう」
「いいよ。チミは素直でいい子だからさ、お節介したくなっちまった。ははは」
笑い声が洞窟の奥に消えていく。
痛みが引いてきた…、淋しさもちょっと無くなった…
「そろそろ、いいかな。」
意外と狭いな…
最初は歩いていたのに、中腰になりついには四つん這いで洞窟を進んでいる。
「もしかしてドワーフさんの所に繋がってない?」
ハッとして止まるミラ。
「行きたい所、行きたい所、遊間遊間…テアトルムテアトルム…」
目を瞑り、言葉に出して念じてみる。
すると、何かに引っ張られるような、呼ばれるような感覚がした。
「…よし。」
再度気を引き締めて洞窟の先を目指す。
「何にも見えない。」
行き先を定めてから10分程して何も見えないくらい真っ暗になった。行くか戻るかの道しかない洞窟を、ひたすら暗闇に向かって進み続けている。
「いでっ!…ッた~、何かに当たった!これは…」
洞窟の端に辿り着くと、そこにはドアのようなものがあった。
「ドアのぶは無いのか…。どうしよう。……」
トントン
おもむろにドアをノックしてみる。
「すみませーん。テアトルムに行きたいんです。開けてくださーい。」
トントン トントン
ガチャ
「開いた!?」
「おや?見ない顔だね。いや、誰の顔も覚えてないんだけどねっあはははは」
茶色いローブを着た鼻の長い、元い鼻の高い白黒の毛深い生き物が豪快な笑い声で出迎えてくれた。
「さぁ、遊間へようこそ。少女。」
「遊間…」
優しい色の家々、活気のある市場、美しく吹き出す噴水の周りには陽気に歌う者や楽しく語らう者達…。
「わぁ…」
「すげぇだろ?ありゃ王国さ。国王様が居るんだぜ?そりゃ当たり前か!あはははは」
振り返ると洞窟の入り口は無くなっていた。
「あぁ、通路は閉じちまったぜ?後がつっかえちまうからなぁ。お、キタキタ!」
ミラが出てきた扉とは違う、立派な装飾が施された扉が現れた。
「よぅ。見ない顔だね。いやっはっはっはっ!!」
「あの、なんで私のと扉の形が違うの?」
「じゃあなー。あ?そりゃ同じ扉なんていっこもねーさ。て少女、マジで新参者かい。」
「うん。初めて来たんだ。」
「そーかいそーかい!ようこそ!あんた見たところ魔導師だね?魔導師があんな小さい扉から出てくんのは初めてだ。はっはっはっ」
「さっきの豪華な扉から出てくるの?」
「一概にそうとは言えねーがな。あんた、心細かったんじゃねーのか?異次通路は感情に反応するからよ。」
「感情に?」
「おう。通路を通ってる時どんな気持ちだった?」
「…森で迷ったり、悪魔にあったり…。テアトルムに行きたかったんだけど…確かに心細かったかも…」
あん?テアトルム探してんのか?それならこっから北にずっと進めば見えてくるぜ。
そうなんだ!ありがとう!
やぁ、サシュレ。差し入れを持ってきたよ。
白髪に綺麗な紫色のメッシュがかかった猫目の女性がドアを開けてくれた生き物に話しかけた。
よぉ!いつもあんがとなぁ~!はっはっはっ!
おや、新しい子?
「あ、こんにちは。
「こんにちは。ミナトです。
ミラです。
「ちょーどいーじゃねーの。そいつテアトルムに行きたいんだとよ。連れてってやったらどうだ。
「そうなの?
「はい。テアトルムに行きたくて。
「いいよ。入園資格は?
「えっと、たとえば?お金?
「少女ぉ~テアトルムの入園資格は金じゃねーんだよぉ~そんなことも知らねーで来たのかぁ?
「え?
マナだよマーナ!
あ、それならあります!いくらでも!
いくらでもはねーだろ。
なら大丈夫。じゃあ行こっか。サシュレまた何か持ってくるね。
おー!さんきゅーなぁ~
サシュレさん、ありがとうございます!
おー、頑張れよー。
どこでテアトルムの事を?
森で迷った時に、妖精から聞きました。学園だってことしか分からなかったけど。
テアトルムはねぇ~魔導・実技・ライフスキルを身に付ける為の学園なんだよ。身に付ける事が目的じゃない子もいるけど~…一種の保護施設かな?
孤児院みたいにですか?
んー、子どもだけじゃないかな。
はぁ、…?
もし君がテアトルムで暮らしたいなら歓迎だよ。その時は入学金が必要だけど。
…分かりました。
話しながら歩いていると、一軒の店の前に着いた。
さて、テアトルムに入る前にこの水晶を手に持って。
ここがテアトルムですか?
ここは入り口だよ。エントランス。
エントランス…?
はいコレ。
はい。
ここにマナを注いでみて。
はい!
半透明の水晶の中に黒と赤の渦が発生した。その中に金色の光何かもあった。
女性はミラを見つめて静かに微笑んでいる。
ど、どうですか?
「ふふ、良い色だね。キミはこれから大変だろうけど、どんな事があっても諦めないで進みな。
「え?
「さぁ、ここがテアトルムだよ!
わぁー!……ん?
赤い布がいくつも垂れ下がった門をくぐり、店に入ると普通の店だった。
この先この先。
いらっしゃーい。ミナトまた新しい子?
うん、ミラちゃん。よくしてやってね。
あいよー。
よ、よろしくお願いします。
俺はルコ!よろしくぅ~今仕事中だからさ、後で顔だしてくれたら案内するよ!
ありがとうございます!
その奥がテアトルムだよ。
店の入り口と同じ門に、今度は黒い布がいくつもかかっていた。その門をくぐると、
おぉー!!
赤と濃い紫を基調とした中華風の建物が連なっていた。遠くには見張り台のような高い建物や、王様が住んでいそうな立派な建物まで。
こっちだよ。まずは在籍カードを作ろう。
あ、えっと、その前に。
その前に?
学園長さん?ですかね、そういう人に挨拶しないと…ですよね?
あぁ。大丈夫だよ僕がそれみたいなもんだから。
えっ!?だから色々…えぇ!?
ふふ、さぁこっちだよぉ~。
思えばここまで来るのに色々あった。
いきなり死にかけたと思ったら魔導が使えるようになって、15年間一緒に過ごした家族と別れて旅に出て、初っ端から森で迷子になる。
性格の悪い嫌味な笑顔の悪魔に攻撃されるわ、気分悪くされるわで最悪だった。
でも可愛い妖精達に元気を貰って、小人さんに親切にして貰って、遊間でも色んな人に助けて貰った……さっきミナトさんも言ってた。これからが大変なんだ。頑張ろう。
◆
遊間は湖に囲まれた土地に在り、
東西に分かれた道と繋がっている。
東へ行くと悪魔の巣食う迷いの森がある。
西へ行くとイバラの生い茂る地獄道がある。
容易ではないが通れなくもない。
命を1つや2つ落とすだけだ。
大変な思いをせずとも遊間を通れば簡単に北へ進める。通行証があればただ通り過ぎることが出来る。しかし遊間には珍しい特産品や湯屋がある。通り過ぎるだけでは後悔する。
先生。
ん?新入生のミラ。なんだ?
🧐説明口調だ。
私はサシュレさんが待つ場所に異空間移動してたどり着いたらしいのですが、それはどういうことなんですか?
あぁ。お前は異空間の入り口を見つけられたんだな。
🙄異空間の入り口?
通常のルートは先程説明した通りで、他の道といえば空を行くか湖を通るかだ。しかし、魔導師は別の方法を取ることもできる。それが異空間移動だ。
🧐ミラさんに出来たという事は僕達にも出来るという事ですか?
出来る。異空間移動は体力とマナが多く必要だ。よって、移動中に体力かマナどちらかが切れれば異空間に取り残されてしまう。
えぇーー!?
帰れるんですか?
帰れない。異空間は無数に存在する不安定なものだ。それを保持し続けるためにマナが必要で、安定させるために体力が必要なんだ。
🙄ミラさんよく無事でしたね。
🥴それだけマナも体力もあるんだねぇ。
実は、最初は身長より大きな洞窟だったのに、先に進むにつれて通路が狭くなっていったんです。最後はハイハイで進みました…。
それは体力かマナどちらかが減っていったからだな。
なるほど…サシュレさんには心細かったんだろって言われました。
暗い顔だったんじゃないか?体力をつけた方が良さそうだな。
はい!
だがまずは異空間移動する為の入り口を探し当てる技も必要になってくる。ミラは自分で探し当てたのか?
偶然洞窟を見つけたんですが、私より先にドワーフさんが通りました。
なるほどな。ドワーフは鉱石を採掘する為に様々な場所へ訪れる。ドワーフが開けた異空間の入り口だったんだろう。
へ~。
お前達はまだ入り口を作り出す技術もマナも体力もないから、興味本位で異空間移動しないように。死ぬからな。
ひぃ…!
異空間移動については大丈夫か?
は~い!
よーし続けるぞぉ~
遊間には元奴隷や人類など様々な種族がたくさんいる。戦闘能力の無い種族には生き辛いのが現実だから、そういう種族にとって遊間は安心できる場所となっている。
ちなみに私は緋奈ひな族だ。ハカセは博識な好能こうの族だな。
🧐はい!
チョウノは飛流ひりゅう族か。
🥴そうです!
🙄チョウノ飛べるの?
🥴まだ飛べないよ。飛ぶ為にここに来たんだぁ。
情報収集は基本だ。テアトルムには何の種族がいるのか各々で調べるように。ただし、無闇に話をするのは危険だから、気をつけるように。
はーい。
テアトルムを管理しているのはDiosa。遊間も管理している。
ミナトさんが次々と客を招き入れたことで住民が増えた。
しかしDiosaもミナトさんも何もしてくれなかったので、住民は生きる為に知恵を絞った。
ミナトさんの魔導具を量産する者が出て魔導具が特産品になった。
ミナトさんの本棚にあった薬草図鑑を読み、様々な薬湯を作り出す者が出て湯屋が出来た。
これといって特技の無いものは自らを商品にし出し、湯女が現れた。
そうして出来たのが遊間である。
贅沢は出来ないが最低限の生活が出来るようになった。
これが遊間の成り立ちだ。お前たちがここで学べるのも、Diosaが受け入れてくれたことに起因する。感謝の気持ちを持ち、自分に何が出来るのかを探して生きるように。
はーい。
先生、遊間の外には何があるんですか?
カーンカーンカーン🔔
時間だ。それについてはまた明日にしよう。授業は終いだ。
ありがとうございました。
はい。ありがとうございました。
🧐セイ先生
どうした?
🧐Diosaは何で人類達を受け入れたのでしょうか。
気まぐれだろう。受け入れた訳ではなく、勝手に入り込んできたまま放置していたと聞いた。
🧐はぁ…冷たいんだか優しいんだか分からないですね。
Diosaは気ままだ。振り回されないように心を広く保つといい。
🧐はい。