Theatrum

創作の引き出し。創作途中の話もあるので、突然文章が変わる事があります。

逢魔時の城下町01

あまよいちゃーん!甘夜ちゃんいるかい?

 

あらあら、佐吉さんどうしたの?

 

やぁ、甘味の女将さん今日も綺麗だねぇ。

 

ありがとう。それで、そんなに慌ててどうしたの?

 

甘夜ちゃんいるかい?奥様が急いで甘夜ちゃん呼んでこいって朝から騒いでらしてさぁ。

 

佐吉さんおはよぉ。何かあったの?

 

おう!甘夜ちゃん!奥様が呼んでこいってね、駕籠はあるから、ささ!急いで!


えぇ!急だなぁ…ママ上行ってくるね?


はい。これお土産ね。粗相の無いように。


うん!ありがとう!



甘夜!遅いじゃ無いか、待ち侘びたよ!


すみません!あの、粗品ですがお菓子のお土産をお持ちしました。


おぉ、お前の店の菓子が粗品なもんかね。ありがとう。おこま。


はい奥様。甘夜さん、いつもありがとうございます。


おこまさん。ありがとうございます。


さて、甘夜。お前を呼んだのは他でも無い。我が家にネズミが入った。


ネズミ、ですか?


そうだ。我が家は広い故、いまだに見つけ出せていない。お前にはそのネズミの種類を特定してもらう。


ネズミの数は?


分からん。わしが知っているのは入った事だけだ。


分かりました。


必要であればお前の判断で駆除しても良い。とにかく把握し、報告しろ。


はい。


ったく。迷惑だよ本当に。あぁ、そうだ。もう一つ頼まれてくれないかい?


はい、なんでしょう?


これをあの阿呆に届けておくれ。


これは?


着替えと菓子だよ。


ふふ、分かりました。


悪いねぇ。そっちは急ぎじゃないからね。


◆◇◆


最近変わったことぉ?そーだなぁ、権兵衛のとこのガキが肥溜めに落ちたなぁ



最近の出来事?んー、おみちちゃんが川で河童を見たって言ってたわねぇ。


河童?


そぉ。なんか河童に驚いて腰抜かしちゃって、そのまま子作りしちゃったって浮かれてたわ。


はぁ?



猪が畑荒らしてんだよなぁ。迷惑してんのよぉ。



見たことない兄さんが扇子屋何処だって聞いてきたなぁ。だから、ここらじゃ松田屋が一番だって教えてやったよ。



うちの炭がたくさん売れたねぇ。なんでも祭りをやるんだとかでなぁ。



いくつか怪しいのはあるが、核心的なものはなかったな。…とりあえず荷物届けるかな。

 


こんにちは〜お届け物ですよ〜

 

おや、甘夜さんこんにちは。

 

これ、女将さんからです。お菓子だそうですよ。

 

わぁー萌葱君、優しいなぁ。わざわざすみません、ありがとうございます。あ〜、僕も何か…あ、そうです。

 


そう言いながら水門(みなと)は部屋の奥から肉の塊を持ってきた。

 


うわ、でっかいですねw

 

最近友人になった方がいまして、その方々が狩ってきてくださいました。

 

へ〜!強そうですね。

 

お二人共魔導士のようでしたよ。

 

魔導士?…その方々はもういないんですか?

 

今魔導の練習に出ています。そろそろお昼ですし、帰る頃だと思いますよ。甘夜さんも昼食食べていきますか?

 

あ、じゃあお願いしようかな。

 

 


水門ーー!!ちゃんとリンゴの木を生やせたよぉー!!

 

しかもちゃんと一本な。

 

凄いですねぇ。以前は大量に生やしていましたから成長が見られますね。


(ネズミ…こいつらじゃね?)

 


おかえりなさい、キウレにDiosa。頑張りましたね。

 

ただいまぁ〜!あれぇ?お客さん?

 

はい。和菓子屋さんの甘夜さんです。

 

ほぇー!和菓子屋さん!?ステキ!!

 

先程お菓子をいただきましたから、食後のおやつにいただきましょうか。

 

やったー!!お腹ぺこぺこぉ。

 

じゃあ僕は準備しちゃいますね。キウレは机を拭いてください。

 

はぁーい!

 

私も手伝います。



キウレさんはどこからきたんですか?

 

んー?そら?

 

空?…というと?

 

石板都市って知ってる?

 

いえ、知らないですね。

 

空に浮いてた石板があって、その上に住んでたんだよ。今は落ちちゃってるけどねぇ。

 

…水門さんは石板都市って知ってます?

 

かじった程度ですが。そもそも魔導士の末裔は石板都市にいたという話を聞きましたよ。

 

そうなの!?魔導士って空にいたの!?

 

確か1000年くらい前の話ですからなんとも言えませんが。

 

ん?キウレさんはお歳いくつなんですか?

 

え!?わかんないなぁ…寝てたからなぁ…

 

寝てた??

 

あの時は産まれたばっかだったし…Diosa知ってる?

 

知らん。

 

喋った。

 

Diosaさんはおいくつなんです?

 

年齢の概念はないな。

 

化け猫みたいなものだね。

 

シャー!

わぁーー!!

 


…水門さんは信じる?今の話。

 

まぁ、僕も魔導士のはしくれですからねぇ。魔導の起こりを調べたことがありますから、嘘のようには思えません。

 

ふ〜ん…。女将には2人のこと伝えてあるの?

あ、そういえばまだですね。後で挨拶にいきましょうか。

 

おかみ?

 

僕のパートナーですよ。

 

お前パートナー居たんか。

 

そうですとも!

 

1人寂しい魔神だからてっきり独り身だと思ってたぜ。

 

だからこそ!!だからこそ萌葱君といるんじゃないですか!!!

 

あーねー。



キウレです。こっちは友達のDiosaです。よろしくお願いしまーす!

 

…。

 

萌葱君?どうしました?

 

2人とも魔導士なんだな?

 

はい!

 

はぁ…。水門、ことの重大さは理解してるか?

 

と、言いますと?

 

この世に存在する魔導士はもはや少ない。そのうちの2人…1人と一匹が城下に入った事を黙っていたと言う事だ。

 

え!?ぃや、だって2人は悪い方々じゃありませんし、

 

能天気なお前が悪か善か判断できるわけないだろう!

 

あれ?悪者だと思われてない?

 

だな。

 

素性が分からないうちは自由にさせられない。そもそもお前達は何処から入った?水門の家にいたのだろう?

 

森で迷子になってて、水門の家を見つけたんだよ。

 

…分かった。

 


女将と甘夜の目が合う。

 


まぁまぁ、女将さん落ち着いてください。私も少し話しましたが、2人とも感じの良い方々でしたよ?

 

あの…どうしたら信用してもらえますか?

 

ふむ、そうだな…紅緋のところに行って来い。

 

紅緋さん!?

 

行けたら信用してやる。

 

何か大変なの?

 

いやぁ、どうかな…

 

水門は落ち着いているな。

 

ん〜多分お二人なら大丈夫だと思いますね。

 

そうなの?

 

はい。僕はそう信じてます。

 

なんだよ、力試しか?

 

そんなところです。

 

甘夜も行けよ。

 

なんで!?

 

久々に行って来いよ。

 

いやいや女将!必要ないって!

 

誰が監視するんだ?

 

女将ならいくらでもいるじゃーん!

 

お前もその1人だ。行って監視しろ、仕事だ。

 

はぁ…分かりましたよぉ。

 

なんか凄い気になるんだけど、なになに?

 

お前ら魔導士なんだろ?

 

そうだってば。

 

なら数日でいけるよな…

 

だからなに!?

 

はぁ…



ここが使い魔堂、紅緋さんの家で仕事場だよ。

 

つかいまどお?

 

紅緋さんは魔導士じゃないんだけど、不思議な導術を使えるんだ。結界やら式神やら使い魔やらよくわからん。その力で君達が善か悪か測ってくれるよ。

 

測られて、良いよってなったら信用してもらえるの?

 

そういうことだね。

 

分かった!頑張ろうね、Diosa!

 

めんどくせーなー

 

そんなこと言わないで!元気に行こう!

 

へーへー

 

こーんにーちはー!



扉を開けると雑貨屋だった。案外普通だとキウレが呟きながら中に入ると、景色が真っ暗になった。驚くキウレとDiosa。暫くすると葉の香りがし、前方から強い風が吹いた。

反射的に顔を腕で覆い守った。立っているのがやっとな程強い風だ。風が止んだところで、目を開けると、森の中にいた。

 


な、なんだぁ?

 

紅緋さんは導術で空間を作り出すんだって。君達がする事は、ひたすら進み続けて紅緋さんの所に辿り着くことだよ。

 

なんか…凄いね。こんなの初めてだ…。

 

空間転移の類か?

 

どっちに行けば良いの?

 

さぁ?私もわからん。

 

そーなの!?

 

行きたい方に行ったらいいよ。

 

分かった!行こう2人とも!

 


 

森 猿に追われる 猿山とバナナを出して引きつける

崖 魔導で跳ぶ

川 河童に襲われる 川の水をせき止めて一気に流したら自分達も流されてしまうがキウレはニコニコ 

砂漠 ひたすら歩く喉からからDiosaを抱っこしてそれでも歩く

 


はぁ…はぁ…

 

キウレさんさ、そんなにしてまで信用してもらう必要あるの?

 

ぼく…自分がなんで生まれたのか知りたいんだ…

 

 

ぼく…土から生まれて…嫌われてて、皆んなは誰かと誰かの間に生まれるのに。

 

…。

 

…。

 

あと、石板都市に行きたいんだ…

 

落ちちゃったって言ってなかった?

 

分からないんだよ。落ちちゃっててもいいし、まだ浮いてたらそれもいいし…行きたいんだ。

 

ふーん。それがなんで信用?

 

なんか楽しそうな町だし…甘夜ちゃんも、水門も、女将さんも優しいし物知りだし…他にも物知りな人多いのかなって…誰かしら石板都市のこと知らないかなって…思ってはぁはぁ…

 

情報収集したいのか。

 

はぁ…そういうこと…はぁ…結構大変だね…はぁはぁ

 

そんな簡単にいかないよな。

 

そだね、はぁ…甘夜ちゃんは疲れてないの?

 

まぁ、キウレほどでは無いな。

 

汗もかいてないし、凄い…はぁ…はぁ…

 

毎日お菓子作ってると体力つくんだよね。

 

D:無理がある。

 

ふふ。そういうことなら、頑張るしかないね!

 

へへ、うん!

 


バタン

 


え?

 


元気のいい返事と共に、キウレは気絶した。



はぁ!!!

 

D:うるさい。

 

すいません!…あれ?

 

甘:おはよう。

 

お…はよう、あなたはもしや!!

 


ふふ、紅緋です。ようこそいらっしゃいました。



とてもお早いですね、お店に入ってから2日で辿り着けましたよ。

 

え、2日経ってるの?

 

まじかよ。

 

経ってます。

 

でもずっと明るかったよね?夜にならなかった!

 

そういう空間なので。甘夜さんがヒントを出していたので早かったのかもしれませんね。

 

ご、ごめん。単純に気になって…。

 

問題ありませんよ。さて、キウレさんはご自分の出生や由縁を知りたいとのことでしたね。

 

!?そう!!知ってますか?

 

いえ、私は存じ上げません。

 

…そうですか。

 

ごめんなさい。ですが、あなたが純粋に答えを求めているのが伝わりましたので、信用に値すると判断しました。女将さんから預かった石をお持ちですね?

 

あ、うん。これ、模様が…ただの石だったのに!

 

それは魂石といって、マナに反応して変化する石です。それを女将さんに渡せば成果を伝えられますよ。がんばりましたね。

ありがとうございます!!



女将さーん!行ってきましたよ!!これが僕の成果です!

 

騒がしい!!

 

ごめんなさい!

 

ふむ…なるほどな。何日かかったんだ。

 

紅緋さんは2日って言ってた!

 

早いじゃないか。甘夜は10日はかかってたよな?

 

言わなくていいよ。

 

えぇ!?でも汗ひとつかいてなかったし、大変な顔してなかったし!!

 

素直なやつはすぐに攻略できるんだよ。あれこれ難しく考えるやつ程時間がかかる。

 

〜。

 

でも今回は甘夜ちゃんも一緒にでてきたよね?

私は一度攻略してるからな。

 

ここ(心)がブレてなきゃすぐに出て来られるんだよ。もしブレてりゃあすぐにはぐれて別の道に行っていたさ。よかったなぁ甘夜。

 

女将さんは意地悪いですよぉ。

 

親切心だよ。さて、キウレにDiosa。お前達の逢魔時城下への出入りを許可する。みんなご苦労だった。

 

◆◇◆

 

逢魔時の城下町00

忍びの心得


川には死体が転がっていた。先の合戦による死者だろう。武者の格好でないものもいた。逃げる途中か、村を襲われたのか…。その中に息のある娘がいて、それを持ち帰った。


娘を拾った者といえば鬼里の頭領であった。散らばっていた鬼里のいくつかは人族に襲われて乗っ取られていた。対抗策として鬼の武者衆は武力を固めようとしていた。その一つに忍の育成があった。


娘にはもともと親がなく、村でひっそり暮らしていたという。人の里に戻る理由もないので、このまま鬼の里で暮らしたいと申し出ていた。鬼の頭領は現状を娘に話した。


いくつかある鬼の里は自然と動物と共存していた。そこへ突然人族が現れた。初めは害がなかったので受け入れていたが、段々とその本性を表していった。機会を得た人族が鬼の里をのっとり、鬼を奴隷にしたり殺したり…、生き延びた鬼は我が里に舞い戻っている。多くは尊い心で流しているが、人族を恨む者ももちろんいる。そこで、人族の情報を掴む為の忍を育成するつもりだ。お前にはそれをやってもらいたい。どうする?


娘は、自分が人族で潜入調査にも向くからであろうと思ったし、生きる術を学べるのであればとすぐに返事をした。


鬼の頭領が指を鳴らすと、音もなく娘の前に現れた黒い影。


こちらは忍組頭、鬼里全ての忍の頂点だ。部隊別に小頭がおり、その者は偵察部隊の小頭だ。お前はそこで修行をしてもらう。あとは頼むぞ。



数年間、娘は体力作りしながら戦闘技術・暗殺技術を叩き込まれた。その間も人族の進行により鬼の武者衆は駆り出されては数を減らしていた。武者衆の数は減っているが、初期の襲撃以来鬼の里が乗っ取られることはなかった。鬼達は人族に怒りを抱いていても復讐戦はせず、毅然と立ち続けていた。鬼の頭領が復讐を良しとしなかったのだ。その代わり自分達の種族を守る為に絶対的な武力と索敵能力を見せつけ、強化していったのだ。


◆◇◆


啐啄


身寄りの無い小さな子が店の前で倒れていたので育てることになった。


容姿端麗で賢い娘であるが、この乱世を生き抜くには優しすぎる。どうしたらこの子に自己防衛の意識をつけられるだろうか。


そう思っていたところに知り合いのおてんば娘が奉公にやって来た。こちらも容姿端麗な上、忍びの才能を見込まれている切れ者。しかし武芸に疎く、仕込む為にという目的だった。


私はこれ好機と考えたのだった。



朝起きたら屋敷をピカピカに磨き上げ、

朝食ができるまで素読に算盤、習字。

朝食後は三味線、琴の稽古。

休息におやつをとったら舞の稽古。

夕食前に剣道か柔道を習い、

汗を流して夕食にありつく。

月に2.3度は夜の稽古もある。

夜の稽古があった次の日は、昼まで休めた。

基本的に女性らしさを学びにきているのだが、戦闘技術も疎かにできず、忙しい毎日を過ごしていた。これだけなら問題なく過ごせたはずだが、どうもここの師匠は癖があってかなわん。

 

 

答えを、問うなっ!

そう言って師匠は私の頬を何度か打った。なんの答えを問うたかと言えば、何故私を叩くのかと問うたのだ。

何人もいる子の内、私にだけ当たりが強いのだ。はじめは精神を試されているのかなと思ったがどうも性根の曲がった事ばかりしてくる。


至極真っ当な疑問であり、その答えを知る権利が私にはある。

あ、あの…お師匠様、

近くで怯えているのは師匠が拾った娘である。この時間に稽古部屋にいるのは私だけ。師匠と娘は夕食の準備が整った事を伝えにきてくれたはずだった。


桜は下がっていなさい。

でも…

下がりなさい。

ッ!…こんのあんぽんたん!!私のなにが気に食わないってんだ!1ヶ月も意味不明に叩きつけやがって!理由があるなら直接言ってみやがれ!


…。


んだよ、何にも言えねーのか?


愚かな。


調子に…乗んなよ!


しまいには師匠に殴りかかっていた。


やめて!!


桜は私と師匠の間に割って入り、悲しそうな目で制止している。


やめて。甘戯。


サクラ…。お前は何にも思わないのかよ。師匠が理由も無しに叩くわけが無い。でもその理由を言うつもりもない。だよな?行き場のない憤りは本人に直接向けるっ!お前はすっこんでろ!


いけません!あなたは何を学ぶ為にこちらにきたのですか!?一度冷静に考えてください!


考えただろ!?お前にも相談した!それでも分からないから聞いてみたら、さらに強く叩かれたぞ!なんなんだ!師匠なら師匠らしく説いてみろってんだよ!


答えをすぐに伝えてもあなたのためにはならないわ。お師匠様に意図があると思ってるならその意図を考え続けたらいいじゃない!


1ヶ月しただろうが!お前も知ってるだろ!!


考え続けるのよ!


やり返しちゃいけないってのか!?


そうよ!


無理だ!どけっ!!


きゃっ!…んー、もお!分からずやぁ!!!


な!?やめろ!髪を掴むなっ!!


あなたがやめないからよ!


だって私わるくないだろ!


おしとやかじゃないもの!


今のお前もだろ!


師匠を忘れ、桜と取っ組み合いの喧嘩になっていた。師匠はその様子を少し眺めてから去っていった。


あの…玄如様。


はい?


止めなくて良いのですか?


…はい(ニコリ


傍にいた女将と師匠の会話は耳に入らなかった。



ある日、師匠がいつもの様に理不尽を行おうとして来たのでガードしてやった。今までは不意をつかれて避けれなかったが、来るとわかれば避けられる。実は意味があると思って受け続けていたが、堪忍袋の尾が切れたので避けることにしたのだ。

戦いに心得のない師匠の残念そうな背中に心の中で罵倒を浴びせた。


しかし、穏やかな日は数日しか保たれなかった。師匠は私が考え付かない様なやり方でまたも理不尽を行い始めたのだ。

やり口がどうも忍びのそれらしい。どこかのお節介な忍にアドバイスでももらっているのだろう。


その後も師匠の嫌がらせは続いた。

理不尽に食ってかかる私の目の前には必ず桜が現れ盾となり庇った。

自分より弱い者との関わり方に不慣れな私はそんな桜にも悩まされた。


いつしか桜は口喧嘩を覚え、私も手加減をしながらやり合うことを覚えた。掴み合いの取っ組み合いを繰り返し、ついには高度な喧嘩をするようになっていた。

 

 

おはようございます。師匠ぉー!


元気に挨拶をしながら師匠の背後をとる。


こらぁー!


振り上げた手は届く手前で桜にはたかれてしまった。


サクラっ!邪魔するな!


お師匠様に乱暴するのはやめなさい!


師匠が仕掛けてくるからだろぉ!?


あなたが未熟だからでしょっ!


だからって理不尽にする必要はないはずだっ!


理不尽ではないわ!意図があるはずよ!


じゃあ聞くが、お前はその意図を理解してんの?


ぐっ!


お前だって分からないじゃないかー!


グワーンッ!


突然大きな音が鳴ったかと思えば頭に鈍い痛みが走り、目の前がグワングワンとまわっている。師匠が大鍋か何かで叩いたらしいと思い至る頃には意識を手放していた。


甘戯ぃ!?甘戯大丈夫?たいへーん!!! 

 

おや。やり過ぎましたね。



サクラ。


あ、女将さん。


遅くに何を作ってるんだい?


あ…、甘戯の…。


あぁ、あの子昼から何も食べていないものねぇ。


はい…。


様子を見にいくところだから、あたしが持ってってあげるよ。


え?


都合が悪いのかい?


あ…いえ。お願いします。



スッ…。


グッグッグッ


ん、はぁ、はぁっ


女将さん。


サクラが甘戯に夜食を作っていたから預かってきたよ。


あ、ん…、サクラが?


今でこそお前に似てきたが、元はおしとやかな優しい娘だからねぇ。


はぁ!んぁっ、んん、


調子は?


だいぶ慣れてきたようです。


そう。


あ!んっ、…はぁ〜疲れた。


まだ終わってねーよ。


だって!サクラのご飯が!


終わってからにしろ。


えー!


お前ね…。これも修行の一環だろうが。余裕が無けりゃ取れる情報も取れねーんだぞ?


んん、でもあったかいうちに食べたいもん。


じゃあ早く俺を満足させてみろ。


分かった!


ったく。色気の無ぇこと…。



サクラ…?


ん、なぁに?


おはよ。


おはよう。


あの、さ。昨日、夜食食べたよ。


あらそう。体調はもういいの?


うん…美味しかった。ありがとう。


どういたしまして。これに懲りたらお師匠様にちょっかい出さないことね。


私が出されてる方なのに。


…ねぇ、なんでだと思う?


へ?


お師匠様は本当に素晴らしい方だってみんなに尊敬されてる。私だって尊敬してる。…だけど、あなたにだけは…酷いことして…。


へ?


え?


え、サクラ気付いてなかったのか?


…何を?


えぇ……、



たぁっ!


ほーれ。


うりゃっ!!


わーぉ。


んもー!!真面目にやり返しなさいよ!


いや、だってホラ。私が本気出したらお前筋肉痛になっちゃうだろ?女の子は筋肉痛になんてならないのよとか言ってたじゃないか。


…でも、あなたと喧嘩するようになってから家事がスイスイ出来るようになったんだもの。


そりゃー筋肉がついて動きも素早くなったからだろー。


…それに、この間お使いに出た時…

 

 

『おい。その荷物置いていきな!


さ、山賊です!


逃げましょう。


皆様は先に!私が後ろを守ります。


そんな!サクラも一緒に!


おらおらー!!荷物置いてけってー!!


ドカーン!バゴーン!


サ、サクラ?


わ、私ったら…


す、すごいです!甘戯さんとの修行の成果ですね!!


いえ、あれは修行ではなく…


サクラさん。助かりました。ありがとうございます。』

 

 

なんてことが…。


あっはははは!!!凄いな!大人しかったサクラはどこに行ったんだ?


あなたのせいでしょ!!


師匠のせいだろ?


違うってばー!!

 

 

 

 

3年間、お世話になりました。


はい。よくやりきりましたね。誇りにし、更なる精進を続けてください。また何かあれば訪ねてきてくださいね。


ふふ、その時は引っ叩かないでくださいね。


…甘戯。


スッ 甘戯の前で膝をつき、甘戯の右手を両手で包む玄如


え!?


あなたには本当に感謝しています。数々の仕打ち、申し訳あり


玄如様。


(甘戯も膝をついて玄如の目線に合わせ、手を両手で包む。


良き友を紹介してくださり、ありがとうございます。サクラは様々な女性らしさを私に教えてくれました。そのお返しに、護身術くらい教えさせてください。


…なんと。バレていましたか。


ふふ。見習いでも一応忍者ですから。


今度は、(立ち上がりながら


お仕事も依頼させていただきますね。


はい。その時はサクラも誘って共に強くなりましょう。


勝手なことばかり言って!


サクラ。


今度戻ってくる時は美味しいお菓子持ってこないと上げてあげないんだから! 


おいおい、泣くなよ。


泣いてなーーーい!!


ははは!


もーー!!

 

◆◇◆


神と鬼の子

 

家にいたら魔導士に襲われた。理由がわからないし太刀打ちできないしで泣きながら逃げていたらすごく強い人達に助けてもらえた。


戦乱の世で弱いままではすぐに死んでしまう。それもいいかなと思ったけどそうもいかないから強くなりたい。


そう思っていたところに鬼族の頭領という人が一緒においでと声をかけてくれた。年の近い子が里にもいるから話し相手くらいにはなれるだろうって。


僕はこれを機に強くなるんだって、漠然と思った。


◆◇◆


この子はモイハ。訳あってうちで預かることになった。こちらは甘戯。見習いだが忍だ。


よろしくお願いします。


よろしくお願いします。


甘戯には半年間モイハを護衛してもらう。


護衛ですか?


そうだ。モイハは半神半鬼だそうだ。


半分神で、半分鬼?可能なんですか?種族の違う者達の間に子どもは出来ないのでは?


基本的にはそうだ。しかしモイハだけは違うというだけのことだ。


そうですか…それで、何から守れば良いのですか?


それは調査中。ここへ来る時にも魔導士が襲ってきた。


魔導士が!?大丈夫かな…


お前は魔導士と戦ったことがなかったか?


うーん、先輩方が戦っている所をみたことがあるだけです。


なら、今回の事で学んでおけ。もしモイハが死ぬような事があれば、お前もただじゃ済まないと思え。


はい!


モイハの荷物や生活品は甘戯の部屋に運んである。


分かりました。モイハ、よろしく!


はい…よろしくお願いします。



モイハはどこの生まれなの?


…えっと…荒川。

(母は買い物、父は出稼ぎに行っている時に僕は襲われたんだ…)


へー!私は道玄様に江戸川で拾ってもらったんだぁ。お腹すきまくってたからあんまり覚えてないんだけどね!


そうなんだ…。

(この子は両親を知らないんだ。餓死寸前だったってことかな…僕より大変だったんだ…なのに僕はまだ元気になれない…贅沢かな…)


そんで、組頭や小頭とか、他の忍の皆さんに育ててもらったの。みんな親代わり!


へぇ…


モイハの親は?


…ぅ、ん。

(これ言ったらもっと質問されるな…逃げる僕を助ける為に来てくれた人達がみんな傷つけられて…死んだ人もいるかも…僕のせいで…)


モイハ?


親は…


モイハ、大丈夫?


え?


顔色がすぐれないよ。


あ、そう…かな。


うん、疲れてるのにたくさん話してごめんね。ご飯食べて部屋でゆっくり休もう。明日は屋敷内を案内してあげるね!


うん、ありがとう。



それは君のせいじゃないよ。君は戦う為に修行をした事ある?


ないよ…。


そうでしょ?その方法を知らなかったからって、君が悪いことにはならないよ。もし、修行してたら…


修行してればこんなことには…


そうじゃないよ!修行してれば君がとれる方法の幅が広がったってだけさ!どっちにしろ死んでたかもしれないし助かったかもしれない。


…方法の幅?


ただ見てるだけが嫌だと思ったなら、次も同じことしない為に今から頑張ろうよ!私も付き合うよ!


…修行するって事?


そう。まずは体力をつけないと、裏山へ散歩に行こう!



散歩なのにすごく疲れる…はぁはぁ


そーゆー山だからね。


甘戯は息切らしてないね…はぁはぁ


いつもここで遊んでるから。モイハも慣れれば大丈夫だよ。


慣れるかなぁ…はぁはぁ


あれ?


はぁはぁ…なに?


誰かいる…


え!?


静かに。


シュッ(草むらに石を投げる、野ウサギが姿を現し逃げていく


なんだウサギかぁ、びっくりしたぁ…


…(ウサギより大きな気配だったんだけどな


ザワ…


!?モイハ下がれ!


カッ!


手裏剣!?


わたしの近くから離れるなよ。


う、うん。


誰だっ!出て来いよ!


サワサワ…(草木の音


いないの?甘戯、いなくなった?


…、


ダッ!キンッ!サッ…

シュッ!キンッ!

(草陰から飛び出してきた者が甘戯へ斬りかかるが、クナイで受け止める。もう一本のクナイで腹を狙ったが避けられた。再び近づいてきてクナイとクナイで斬り合う。


モイハッ離れるなよ!?


う、うわぁ…動けない…


モイハっ!?


腰が抜けたか…覚悟っ!


モイハっ!!(モイハに覆いかぶさり庇う甘戯


あ、甘戯?甘戯?

 

(呼び声に答えないぐったりした甘戯


甘戯!?お前、何したんだよ!


急所をついた。お前はどうする?かかってくるか?


う、ぁ…くっそ、甘戯ぃ…


ザワ…


ん?お前目が…


う、うーん、


甘戯!?


守りながら戦うのって難しいんだな。イテテ


え?


あれ?…モイハ、目が赤いよ!?何か入った?


俺も気になった。しかし特に何もしていなかったぞ。泣いている様子もなかったし…


何かの毒かもしれない!救護室へ行こう!


え?え?へ?



特に異常はありませんね。念のため綺麗な水で目を洗っておきましょう。


先生ありがとうございます。


勘違いかな?


それより!どーゆー事だか説明してくださいよ!


あー!あのね、いつ攻撃されても落ち着いて対処するって訓練なんだよ。山に入った時はよく襲われるよ。


……とても…びっくりしました!!


ごめんごめん!!あんまり普通な事だから伝え忘れちゃって!本当にごめんね!


すまなかった。甘戯は常にちょっかいの対象だから、次からも許してほしい。


む〜慣れるしかないって事ですね、

 


手合わせしよう!なにしてもなに使ってもいいよ!


手合わせ?


そう!行くよっ!!


わわっ!なになに?いたっ!?


ほらぁ!やり返さないと怪我するよ!


いったぁーい!やめてよぉ!


でもホラ。この間みたいに私が気絶したら終わりだよ?


それは…確かに。


ね!ホラここ!殴ってみて。グーだよ!


う、うん…あだっ!?なんで先に殴るの!?


遅いんだもーん。


心の準備がいるでしょお!?


そんなのしてる間に死んじゃうじゃん!


んーもー!!!僕には僕のペースがあるのっ!


そんなの待ってくれないよーん!


いだっ!いたいっ!!もー!怒った!てやーーー!!!


はは!



ドカーン!!


なに?甘戯がやったの?


違うよ?…まずい!モイハこっちに来い!


え?


早くっ!


キーンッ!(飛び道具をクナイでかわす甘戯


まぁーたお仲間さん?


違う!魔導士だ!はやくここから離れるよ!


え!?わわっ!!


遅いよ。


ちっ、


(戦う甘戯と魔導士。モイハも少し頑張る


ドンッ!!


ガハッ!?(岩に叩きつけられる甘戯


甘戯!!!くそ、わぁ!!?(頭部を鷲掴みされるモイハ


やっと捕まえた❤️早く持ち帰って研究したぁーい❤️


研究!?


半神半鬼だもん。気になるでしょ?俺だけじゃないはずだよ?ま、ホラ。これからの事はあとでいいから、おねんねしててよ。(手に力を込めて苦痛を与える


ぐ、ぐぁぁああ!!


モイ、ハ…


あら、起きたの?あれ?(モイハを掴んでいた腕が切り落ちる


なんで!?俺の手が!?おまえか!?


ぐぅうううう…(両眼から血を流しながら唸るモイハ


目から血が出てんぞ!それってもしかして、神か鬼の力か!?そそるわー!!!どうやったの教えてー!!


ぐぁーーー!!


(戦うモイハと魔導士。魔導士圧倒的大差で負ける


やば…。あれ止まるのかな…。モイハ?


ぐぅう…、ぅあああーーー!!!


だめだ。どうやったら理性取り戻すのさっ!!


(色々試すが成らず。怪我がきつい甘戯


くっそ、なんかヒントないのか?神と鬼か…モイハのピンチに…瀕死の…ぐはっ!ぁ…が…


(甘戯を床に叩きつけ、首を締めるモイハ


モイハのマナが乱れてる…これを調整して…ぐ、ぅう…ぁ…(自分のマナを注いで甘戯が調整を試みる


ぐ…ぅ…?……ん?わっ!ごめん!(慌てて手を離すモイハ


はぁ、出来た…


え?なにが…(いきなり倒れるモイハ


やば、私も…(気絶する甘戯



鬼と神のバランスが合ってさえいれば暴走はしないはずだ。その検証からやってみる必要があるな。その為にはまた暴走を誘わなければいけないけど、なにがきっかけでああなるのか?敵視される事?窮地に追い込まれる事?何にせよ私自身、あれを止められなければ共だお…ゴンッ(げんこつをくらう甘戯


いだっ!?


寝言がうるさい。


組頭…。運んでくださったんですか…


部下がな。


お恥ずかしいところをお見せしました。


見飽きてるよ。


うぅ。


何があったかは寝言で分かった。で?モイハ君はどうしたいの?


モイハ!?あ、モイハ〜!無事かぁ!?


うん、ごめんね…ありがとう甘戯。…ごめんね


私こそ!モイハ強いなぁ〜次は負けないぞ!


え?


なんだまだやるんだ。じゃあおじさんはお暇するよ。


え?え?


組頭!ありがとうございます!



だーかーらー!それを調節できないならお部屋に引きこもってなさいって言ってんの!周りに迷惑なんだからっ!


迷惑なんてかけないよ!だって調節する訓練だって頑張ってるんだからっ!


へー!?でも出来た試しがないじゃないのさ!


何が悪いかはその都度学んでるんだからいーんだよー!

 

 

喧嘩?珍しいね。


組頭。あれも暴走を誘発する為の罵り合いらしいですよ。


えぇ、低レベルな罵り合いだなw



甘戯、モイハ。親方様からの指令で、町に文を届けて欲しい。帰りにお客様用のまんじゅうも買って来るように。


わかりました!



町に行くの久しぶりだね。


そうだな〜。ここ最近ずっと訓練、怪我、訓練、怪我だったもんね!


はは…ごめん。


あはは!なんで謝るのさ!私だいぶ強くなったと思うんだけど!


それは思うよ!僕も結構筋肉ついたよ!


思った思った!


ブォー


ん?なに?


戦だ。…魔導士では無さそうだけど、念の為迂回して行こう。


分かった。


あの…もし、


はい?


◯町へ行かれますか?


あ、いえ。私達は△町へ行きます。


そうですか…。ぁいや、戦が始まったようなので心細かったもので。失礼しました。


あ、はい。


(離れるおばあさん


大丈夫かな。


◯町ってあっちの方か?


うーん。あ!おばあさん戦場に向かって歩いてない!?


はぁ!?


まずいって!


あ、おい!モイハ!!


おばーさーん!


ばかっ!でかい声出すなよ!


ひゅーっひゅん!(色々飛び交う戦場


かがめっ!


おばーさんどこだ?


おい。


え?


なんだ貴様ら。部外者か?


やばっ!


女子どもでも敵の回し者かもしれん!やれっ!!


おー!


まっずい!!


(片方の敵は2人が逃げるには簡単だった。しかしもう片方に魔導士が数名おり、半神半鬼だと気付かれて捕獲されそうになる。


モイハ!


甘戯!?


モイハ集中しろ!訓練を思い出せ!マナをコントロールしろ!自分でやるんだ!お前がやれ!モイハっ!


黙れ!


ガハッ(腹部に強打


甘戯!!甘戯をいじめて、近くの町の人に迷惑かけて、お前達…許さないからな!!うぁあああああ!!!



甘戯、甘戯?


んぁ?


もー寝過ぎ。


へ?そんな寝てた?風呂入ったの?


昼食終わって一汗かいてきた。


やばっ!そんなに!?


まぁそれほど疲れてたんでしょーけど、甘戯が寝てるとつまんないよ。早く顔洗って目覚ましてきて!


うはぁい!!


甘戯、モイハ。


石竹さん?


親方様から指令だ。◯町に文を届け、帰りにお客様用のまんじゅう買って来いって。


はいっ!


はーい!



甘戯!今日は僕が先だからね!


えー!ジャンケンでしょ?


この間は甘戯だったじゃん!


もし、そこの方…


ガシッ


え?あの、


おばあさん。ここいらで無闇に戦場へ誘い出す人がいるって噂なんですが。あなた、知ってますかぁ?


(声を掛けてきた人の手首を掴むモイハ。その両眼は紅と黄に染まっていた。