甘能美にあふれた世界

創作の引き出し。創作途中の話もあるので、突然文章が変わる事があります。

魂石の心臓 (2014.6)

◆2◆

スレイプニルは闘争心の激しい者達の国で、小さなケンカから種族間の争いまでそこかしこで起こっていた。

お使い途中の町娘がぶつかったのはスレイプニルで最も恐ろしい魔導士と言われるマジョルカだった。マジョルカが町娘へ手を向けると、近くにいた全ての者が悪寒を感じた。いくら屈強で喧嘩っ早いスレイプニルの住人でも、相手がマジョルカとなると恐怖で動けなかった。そこへ、突風が吹いたかと思えば少女とマジョルカの間にルルムラが入ってきた。
マジョルカの手から出た魔力を弾いて剣技を繰り出すルルムラ。今の内に逃げなと、いつの間にか背後に居たアメルテュムが呟く。少女は小さくお辞儀をして一目散に駆けていった。
スレイプニルに飽きたマジョルカはひと騒動起こして盛り上げようとしたが、監視役の獣神ルルムラと妖精アメルテュムに阻止されたのだ。決して平和とは言えないスレイプニルだが、マジョルカにとっては刺激の少ない環境らしい。

ルルムラとアメルテュムにマジョルカが怒られている頃、ミューリウムは森へ薬の材料を採りに来ていた。
薬草を摘んでいると、背後に象ほどの大きな魔物が近づいていた。薬草を摘み終え、立ち上がろうとした瞬間、大きな音を立てて襲いかかる魔物をミューリウムは眉ひとつ動かさずに片手で破壊した。粉々になった魔物の魂が雪のように辺りへ散り、空へ消えていった。
ガサッ…再びミューリウムの背後で動く気配がした。今度は粉々にせず素材を剥ぎ取ろうと思ったミューリウムは、気づかぬふりをしてゆっくり前進していく。
気配が動かなくなった事を不思議に感じて振り返ると、銀髪の少年が倒れていた。少年は打撲と擦り傷が多く見られ、息はあるが鼓動に違和感があった。
ミューリウムはその違和感の正体を察し、銀髪の少年をスレイプニルへ連れて帰った。

ミューリウムが宿屋へ帰ると、マジョルカと怒っているアメルテュムがいた。宿屋の前で騒いでいた酔っ払いをマジョルカがボコボコにしたらしい。ミューリウムは呆れた表情で穏便に済ませるよう促した。
銀髪の少年をベッドに寝かせ、改めて様子をみるミューリウム。付いてきたマジョルカとアメルテュムに何処の子だと問われ、深苦の森で拾った事を伝えた。アメルテュムが回復しようとしたが、マジョルカが止める。
「こいつ回復魔法じゃなくても治るでしょ。試した?」
「いや、私は契約してないから無理だよ。」
「どーゆーこと?」
「心臓が魂石だ。」
「魂石って…使い魔!?」
使い魔はお供として魔物や動物に施す魔法で、知性を備えた生物には施さないのが暗黙のルールだった。銀髪の少年は明らかにヒト族だ。
使い魔は契約した使役者から魔力を与えられて活動する。傷ついた使い魔は使役者の魔力で回復出来る。

魂石を使って使い魔を作り出せるのは魔婆一族とミューリウムとマジョルカ、そしてダマラだ。魔婆一族はルールに厳しい、破るような事はしない。マジョルカはルルムラとアメルテュムが監視していた。恐らく犯人は…「ダマラだ。」